我々は、CD20陽性B細胞リンパ腫患者から、リツキシマブ投与前とその投与後に耐性となった2つのリンパ腫細胞株(P20とN20)の樹立に成功した。P20細胞はCD20陽性であるが、N20細胞のCD20は陰転化していた。両細胞株は同一患者より樹立された同一クローン細胞由来であることが証明されており、CD20陽性からCD20陰転化する機序の解明に有用なペアBリンパ腫細胞株である。これまでの解析の結果、N20細胞のCD20ゲノム(MS4A1)自体が欠落していることが突き止められた。さらに、N20細胞ではMS4Aクラスター遺伝子群のうち、MS4A1遺伝子をはさんで下流のMS4A13遺伝子から上流のMS4A3遺伝子までが欠落していた。すなわちB細胞リンパ腫におけるCD20陰性化には、CD20遺伝子周辺のゲノムの脱落という新しい機序があることが明らかになった。 さらに、de novo CD20低発現リンパ腫における効果的な治療法開発に向けての基盤研究を行った。CD20低発現B細胞リンパ腫症例から樹立された細胞株を用いて、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬によるリンパ腫細胞増殖抑制効果を調べた。その結果、HDAC阻害薬であるボリノスタットを加えると、濃度依存的にアポトーシスを誘導した。さらに、ボリノスタットにBETブロモドメイン阻害薬でMYC活性を抑制するJQ1、あるいは細胞分裂に関わるPolo-like kinase 1 (PLK1) の阻害薬であるボラセルチブを併用すると、ボリノスタット単独より相乗的にアポトーシスが誘導された。抗CD20抗体治療の効果が十分に得られないCD20陰性B細胞性リンパ腫に対峙できる新規治療戦略につながる成果が得られた。
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