研究課題
成人の白血球・赤血球・血小板は骨髄内に存在している造血幹細胞から分化・生成・維持されている。骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞に生じた後天的な遺伝子異常により、正常の白血球・赤血球・血小板の生成が障害され造血不全を呈し、しばしば急性骨髄性白血病へ移行する難治性血液疾患である。造血不全を呈する疾患としてMDS以外に再生不良性貧血(AA)、発作性夜間血色素尿症(PNH)があるが、時にこの3疾患は区別がつきにくいことがある。MDSは高齢者に多く、抗がん剤使用歴や放射線治療歴のあるガン患者に好発する。人口の高齢化が進み、また、「ガン生還者(ガンサーバーバー)」の増加しており、MDS患者は増加している。MDSの根治治療は他人の造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植であるが、高齢者に本治療を行うことは困難で、ガンになった患者さんにも有害事象の観点から本治療のリスクは大きい。したがって、MDSの発症機構を詳しく調べ、MDSの確実な診断のもと、特異的な治療法を開発することが望まれる。先行研究によりMDS、AA、PNHといった骨髄不全症候群の造血不全にNatural Killer Group D (NKG2D)免疫介在性細胞傷害の関与が示唆されていた。私たちは血中可溶性NKG2Dリガンド(sNKG2DL)陽性の骨髄不全症候群患者では血球減少が強いこと、血中sNKG2DLはNKG2D免疫による造血障害のモニターになることを提唱した。また、申請者らは造血障害とMDS類似血球形態異常を呈する遺伝子改変マウスを独自に作成した。本研究の目的は①sNKG2DLの有無と従来のMDSの分類との関連を調べsNKG2DLの臨床的意義を確立すること②当科で作成したモデルマウスを用いてMDSの病態形成にNKG2D免疫がどのように関わるかを探求することである。本研究の成果はNKG2D免疫の視点を入れたMDSの再分類と治療指針、及び、NKG2D免疫を標的とした新規治療の開発につながる。
2: おおむね順調に進展している
1、MDS患者における血中NKG2DL値。これまでにMDS患者30例の血中sNKG2DLをELISA法にて検討した。興味深いことに先行研究と異なり、MDS患者では健常人と比べ血中sNKG2DLの発現が低かった(p<0.001)。一方、骨髄不全症候群のうち、 AAやPNH患者の血中sNKG2DL値は高値であることが報告されている。MDSとAAおよびPNH患者における血中sNKG2DL値の違いは病態形成の違いを反映していることが示唆され、血中sNKG2DL値はMDSとAAおよびPNHとの鑑別診断の一助になる可能性がある。2、MDSモデルマウスにおける病態形成私たちは若年MDS患者に新規Lig4遺伝子変異を見つけた。そこで、MDSモデルとして、Lig4変異マウス(LigW447C/W447C)を作成した。予期しなかったことに、この遺伝子変異マウスは造血不全だけでなく重症下痢を発症し、14週令でほぼ死亡した。本変異マウスの腸管組織像は炎症性腸疾患(IBD)に類似していた。免疫染色では、CD4陽性T細胞とF4/80陽性マクロファージの著明な浸潤を認めた。また、腸管に浸潤しているリンパ球をFACSで解析すると、CD4陽性T細胞は増加しているもののTCRγδ陽性T細胞は減少していた。これらの結果より、CD4陽性T細胞やマクロファージがLig4変異マウスの腸炎発症に関与していることが示唆された。私たちの変異マウスは造血不全と自己炎症性疾患を統合したモデルになると考えている。
1、MDSとNKG2D介在性免疫現在までに、MDSの保存検体を70例まで収集できた。これらの検体を解析し血中sNKG2DL値と、臨床像およびMDSリスク分類との相関を検討していく予定である。また、他の骨髄不全症候群患者(AAやPNH)の血中sNKG2DL値と比較し、MDSとAAおよびPNHとの鑑別に役立つか、検討する。また、病変の主座である骨髄中のsNKG2DL値を測定し、血中sNKG2DLとの比較を行う。一方、同種造血幹細胞移植を行った1例で移植前後に血中sNKG2DL値を測定したところ、血中sNKG2DL値が移植前に比較して約70倍上昇していた。同種造血幹細胞移植前後の血中sNKG2DL値を測定し、臨床像と比較していく。2、Lig4変異マウス(LigW447C/W447C)の病態解析本マウスは骨髄異形成症候群とともに炎症性腸疾患も発症した。現在まで主として早期死亡の原因である炎症性腸疾患の解析を行ってきた。今後、本マウスが呈する造血不全・骨髄形成症候群と自然免疫・NK介在性免疫の解析を行っていく。
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