研究課題
RUNX1-EVI1は、t(3;21)の結果形成されるキメラ型転写因子遺伝子であり、急性巨核芽球性白血病の発症の原因遺伝子である。RUNX1に対するドミナント・ネガティブ効果とEVI1の過剰発現効果により、白血病を発症させる。RUNX1-EVI1型モデルマウスを得た。モデルマウスの一部は、8ヶ月以内に急性巨核芽球性白血病を発症した。白血病細胞はc-kit、CD41及びCD31陽性であり、TER119は陰性であった。電子顕微鏡解析では、血小板ペルオキシダーゼは陰性であったが、多数の中心体とアルファ顆粒が観察された。これらの白血病細胞は二次移植、三次移植が可能であり、二次移植、三次移植の個体はより早期に白血病を発症した。しかしながら、二次移植、三次移植の個体においても、白血病細胞の表現形質(c-kit、CD41及びCD31陽性、TER119は陰性)に変化はなかった。以上のことから、RUNX1-EVI1は巨核球系列の白血病を誘導することが明らかになった。本研究者は、in vitroの実験を用いて、RUNX1-EVI1の下流候補遺伝子として、造血幹細胞制御に役割を担うSKP2を同定している。本年度は、SKP2がin vitro(造血コロニー・アッセイ)及びin vivo(二次移植)の系で、実際に下流遺伝子として機能するかどうかを検証した。SKP2の共発現により、もともと芽球様コロニーであるRUNX1-EVI1発現コロニーに分化傾向が出現した。コロニーの継代能の変化に関しては、一定の傾向を認めなかった。一方、個体由来のRUNX1-EVI1発現白血病細胞にSKP2を共発現させてコロニー・アッセイを行った所、primary cultureと同様に、SKP2共発現コロニーは分化傾向を示した。SKP2共発現白血病細胞を用いて二次移植を行った所白血病発症の時期に遅延が観察された。
2: おおむね順調に進展している
本研究者は、これまでにRUNX1-EVI1ノックインマウスを作製している。キメラノックインマウスは急性巨核芽球性白血病を発症するが、その白血病細胞は、正常のRUNX1遺伝子のプロモーター化にRUNX1-EVI1遺伝子を発現しており、過剰発現系に比べてヒト白血病細胞をより自然に再現している。しかしながら、ノックインマウスを多数作製することは困難であり、ノックインマウスでRUNX1-EVI1型白血病の分子病態を解析し、治療開発を試みるのは困難であった。そこで今回は、比較的多数を作製することが可能で、その後の解析にも有利なモデルマウスを、レトロウイルス感染細胞を用いた骨髄移植実験によって作製した。本マウスは、表面マーカー上も電子顕微鏡所見上も巨核芽球系列の急性白血病を発症しており、ヒト白血病とほぼ同様であった。また、二次移植、三次移植により、同様の性質の白血病を発症することを確認しており、より簡便で実験に適したモデルマウスであることが明らかになった。このマウスの表現系解析の仕事は、Leukemia Research(2018)に報告している。さらに、本年度はすでに同定しているRUNX1-EVI1の下流候補遺伝子SKP2がin vitro及びin vivoの系で、実際に下流遺伝子として機能するかどうかの検証を継続している。白血病マウスから取り出した白血病細胞にSKP2レトロウイルスを感染させた後二次移植を行い、SKP2の共発現が白血病発症を遅延させることを確認した。また、白血病細胞にSKP2を共発現させてコロニー・アッセイを行った所、primary cultureと同様に、SKP2共発現コロニーは分化傾向を示した。2年目までの進捗としては、まずまずの成果であると考えられた。
今回得られたRUNX1-EVI1モデルマウスを使用して、分子病態研究と治療開発研究を推進する。分子病態研究に関しては、SKP2以外の下流候補遺伝子にも注目する。本研究者は、マウス造血細胞のprimary cultureを用いたin vitroの実験で、RUNX1-EVI1の発現により発現が低下し、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の添加により(RUNX1-EVI1の野生型RUNX1に対するドミナント・ネガティブ効果を解除することになる)その発現が回復する下流候補遺伝子としてTie2及びAngp1を同定している。これらの遺伝子の蛋白レベルでの発現亢進が確認されれば、Tie2/ Angp1システムが、RUNX1-EVI1型白血病の自律増殖能、あるいは、ニッチにおける生存維持に役割を担っている可能性がある。白血病細胞の表面マーカー解析、及び、血清を用いたELISA法を行い、発現の亢進を検証するとともに、ニッチにおける骨芽細胞と白血病幹細胞の相互作用を免疫染色法により確認する。発現の亢進があれば、Tie2の下流シグナルの活性化の有無につき、リン酸化抗体を用いた免疫染色法で確認する。さらに、Tie2/ Angp1システムを標的とした阻害剤あるいは中和抗体を用いたin vitro及びin vivoの実験で、分子標的療法の開発の可能性について探索を行う。一方、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は難治性のヒトRUNX1-EVI1型白血病の有力な治療薬候補である。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を白血病個体に経口あるいは腹腔内注射で投与した場合に抗白血病細胞効果を発揮するかどうか、白血病細胞の二次移植の際に同時に投与した場合に白血病の発症を遅延させられるかどうかを検討する。
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