研究課題
低リスク骨髄異形成症候群(MDS)の病態において、特に骨髄不全症の発症機序を明らかにするために、CBL変異(CBLΔE8-9とRUNX1変異(RUNX1S291fs)を野生型マウスの造血幹細胞・前駆細胞に遺伝子導入した骨髄移植(BMT)モデルマウスを用いて検討を行った。このCBLΔE8-9/RUNX1S291fs BMTマウスはMDSの白血球減少、すなわち骨髄不全症の表現型と遺伝子発現プロファイルを忠実に再現した、世界で初めての早期発症低リスクMDSモデルマウスである。造血幹細胞・前駆細胞(HSC/Ps)におけるミトコンドリア動態を解析すると、CBLΔE8-9/RUNX1S291fs BMTマウスではミトコンドリアの過剰分裂に伴う断片化が生じていることが明らかになった。ミトコンドリアはROSの過剰な産生源であり、ミトコンドリア動態異常はしばしばROSの漏出を伴うことが知られている。実際にCBLΔE8-9/RUNX1S291fs BMTマウスのHSC/Psでは、コントロールマウスに比べてROSのレベルが亢進していた。CBLΔE8-9/RUNX1S291fs BMTマウスでは無効造血の所見が認められ、その細胞死はホスファチジルセリンの細胞外露出を伴わない細胞死を主体としたものであることが明らかとなった。マウスモデルの結果を踏まえ、ヒトMDS患者症例の骨髄細胞を用いた検討を行った。MDSの骨髄細胞におけるミトコンドリアの断片化の亢進などマウスモデルと同様の所見が認められた。
2: おおむね順調に進展している
CBLΔE8-9/RUNX1S291fs BMTによる世界初の早期発症低リスクMDSモデルマウスを樹立した。このマウスのHSC/Psにおいてミトコンドリア動態異常(著明なミトコンドリアの断片化)が生じてROSの産生が亢進し、汎血球減少すなわちMDSの骨髄不全状症へと導いてゆくことが明らかになった。ヒトMDS患者症例の骨髄細胞においても同様の所見が認められた。
MDSモデルマウスにおいて、ミトコンドリアダイナミクス制御異常および細胞内ROSレベルの上昇により造血細胞の細胞死を引き起こし、骨髄不全症を呈することが明らかになった。ヒトMDS患者の骨髄細胞においても同様な所見が確認された。今後、マウスモデルを用いてミトコンドリアの断片化に関連する複数の因子に着目し、その阻害剤による細胞・個体レベルでの効果を検証し、分子メカニズムを明らかにし創薬候補の探索を行ってゆく。
(理由)学会出張にかかる旅費使用を予定していたが、Web開催となったため使用額が減った。また、外部受託解析機関に次世代シーケンサー解析を依頼しているが、結果返却と支払い請求がずれ込んだ。(使用計画)新年度の配分額と合算し、全て使用する。
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