研究課題/領域番号 |
19K08829
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
秋山 正志 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (30298179)
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研究分担者 |
小亀 浩市 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (40270730)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ADAMTS13 / SIGLEC |
研究実績の概要 |
血中メタロプロテアーゼADAMTS13はフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor; VWF)を特異的に切断することで血小板凝固機能を抑制的に制御している。遺伝的もしくは中和抗体出現によるADAMTS13活性の喪失は重篤な疾患である血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)の病因である。これまでの研究で我々は免疫細胞上に発現する細胞膜上のシアル酸受容体SIGLEC5およびSIGLEC14を介してADAMTS13が細胞内に取り込まれることを明らかにした。今回、新たにシアル酸への結合に必須であるN末端側V-setドメイン内のArg119に変異(R119A)を導入したSIGLEC5/14を発現させた細胞がADAMTS13を取り込むことが分かった。したがって、ADAMTS13は細胞外HSP70 などと同様にシアル酸非依存的にSIGLEC5/14に結合し細胞内に取り込まれると考えられた。また、SIGLEC5は細胞内領域に存在する2つのモチーフITIMおよびITIM-like内のチロシン残基のリン酸化を介してSHP-1およびSHP-2を動員し、免疫反応を抑制する。そこでITIM内のTyr520およびITIM-like内のTyr544を置換したSIGLEC5変異体(Y520A, Y520FおよびY544A, Y544F)また、二重変異体(Y520A/Y544AおよびY520F/Y544F)を作成して発現させ、蛍光ADAMTS13の細胞内への取り込みを観察した。その結果、Y554AおよびY544F変異体では野生型同様の細胞内での蛍光が、Y520A, Y520F, Y520A/Y544AおよびY520F/Y544F変異体では野生型に比べ著しく高い蛍光が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、SIGLEC5/14によるADAMTS13の取り込みに関して、シアル酸非依存性および細胞内モチーフの影響を明らかにした。現在のところ研究の進展は順調であるが今後、リガンドであるADAMTS13のSIGLEC5/14への結合による細胞内シグナル伝達機構、NETs形成における役割を調べていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
我々の実験結果から細胞内ドメインのITIM-like変異は細胞内取り込みの増加・分解の減少もしくはリサイクリングの減少を引き起こし細胞内に残存するADAMTS13量を増加させる可能性が示唆された。今後、上記の細胞内ADAMTS13量の増加を引き起こす機構、ADAMTS13のSIGLEC5/14への結合によって起こる細胞内シグナル伝達を調べる必要がある。現在はHEK293細胞を用いて実験を行っているが、SIGLEC5の細胞内ドメインに結合するSHP-2やSIGLEC14の膜貫通領域で相互作用するDAP12はHEK293細胞ではほとんど発現していない。SIGLEC5/14の活性化で引き起こされる免疫活性の抑制および増強などはSIGLEC5/14がマウスにおいて機能的相同遺伝子が存在しないことから、ヒトの免疫細胞もしくはその細胞株を用いて調べる必要がある。好中球でのSIGLEC5/14の発現レベルは公共RNAseqデータベースの検索および予備実験の結果から、好中球においてSIGLEC5/14が高発現していると考えられる。ヒト好中球を用いた実験が困難である場合に備えて、内在的にSIGLEC5/14をほとんど発現していないヒト単球細胞株THP-1細胞を用いてSIGLEC5/14安定発現株をレンチウィルス感染により構築し、免疫細胞におけるADAMTS13のSIGLEC5/14への結合時に引き起こされるシグナル伝達などを調べることも並行して行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体作成費用として見込んでいたものが、タグ抗体を用いることで費用を削減できた。今年度にベクター構築や免疫染色などの単独で進めることが困難な部分では助力を得るために人件費を計上する予定である。
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