本研究の目的は、TP53変異によるp53の機能喪失がB前駆細胞型急性リンパ性白血病(BCP-ALL)の抗がん剤耐性に与える影響を解析し、予後不良なTP53変異陽性BCP-ALLに対する新たな治療戦略を開発することである。本年度は、一昨年度に樹立したBCP-ALL細胞株のTP53変異導入クローンの詳細な塩基配列解析を行った。また、TP53変異を高率に有するlow-hypodiploid ALLに対する有効性が前臨床モデルで報告されているPI3K阻害剤とBCL2阻害剤について、これらの薬剤と抗がん剤(Daunorubicin)との併用効果をTP53変異導入クローンで検討した。 一昨年度に私達は、CRISPR/Cas9にゲノム編集技術を用いてTP53野生型のヒトBCP-ALL細胞株(697細胞とNalm6細胞)からTP53ノックアウトクローンを作製した。TP53機能が失活した細胞をMDM2阻害剤(Nutlin-3a)によって選別し、得られた個々のNutlin-3a耐性クローンの遺伝子配列をTAクローニング法で解析したところ、TP53遺伝子におけるCRISPR/Cas9標的部位のPAM配列の3塩基上流にindelによるフレームシフトが誘導されていた。このことから、樹立したクローンにおいては、p53機能が失活した結果としてNutlin-3a耐性を獲得したことが確認された。次に、樹立したTP53変異クローンにおいて、PI3K阻害剤(GDC-0941)およびBCL2阻害剤(ABT-199)の抗がん剤(Daunorubicin)との併用効果をcell viability assayで検討したところ、増殖抑制について明らかな併用効果は認められなかった。
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