研究課題/領域番号 |
19K08841
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八尾 尚幸 九州大学, 医学研究院, 助教 (90835282)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 多発性骨髄腫 / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
骨髄には血球細胞の生存や分化、増殖を支持する微小環境が存在している。多発性骨髄腫患者の骨髄において、骨髄微小環境が骨髄腫細胞の生存と増殖を支持し、化学療法後の微小残存病変や薬剤に対する耐性化を引き起こし、骨髄腫の完治を困難にしている可能性が考えられる。我々は骨髄微小環境を構成する細胞の一つであり、血球細胞の生存や分化に関与する間葉系幹細胞に着目して研究を行っている。間葉系幹細胞が骨髄腫細胞の生存と増殖に及ぼす影響とそのメカニズムを明らかにし、間葉系幹細胞を治療標的とした新規治療法の確立を目指している。 マウス骨髄腫細胞株5TGM1細胞をC57BL6/KaLwRijHsdマウス(以下KaLwRijHsdマウス)に移植して作製した骨髄腫マウスモデルの観察では、5TGM1細胞の微小血管周囲へ生着と、血管に沿った増殖・進展を共焦点顕微鏡で確認することができた。血管周囲には間葉系幹細胞が存在することが報告されており、正常造血と同様に間葉系幹細胞が骨髄腫の微小環境の中心的な役割を果たしていると考えられた。 C57BL6マウスに移植された5TGM1細胞は、KaLwRijHsdマウスに移植された場合と比較して骨髄において安定した生着と増殖が認められない。我々は骨髄腫のニッチを形成する間葉系幹細胞に違いがあるものと考え、C57BL6マウスとKaLwRijHsdマウスの間葉系幹細胞をそれぞれ単離し、RNAシーケンス法でそれらの細胞の遺伝子発現を比較した。KaLwRijHsdマウスの間葉系幹細胞では、C57BL6マウスと比較して、いくつかの分泌タンパクの遺伝子発現が低下しており、特定の分泌タンパクの発現量が低いことで5TGM1細胞の生存と増殖に有利に働くものと現時点では考えて解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス骨髄腫細胞株5TGM1細胞で高発現している細胞表面マーカーCD138のみでは正常形質細胞と識別することは不可能であるため、5TGM1細胞に蛍光タンパクmonomeric Kusabira-Orange 1 (mKO1)遺伝子を導入し、mKO1を発現する5TGM1-mKO1細胞を作製した。この5TGM1-mKO1細胞をKaLwRijHsdマウスに移植し、共焦点顕微鏡で5TGM1-mKO1細胞の微小血管周囲への生着と、血管に沿った増殖と進展を確認できた。また、フローサイトメーターでもKaLwRijHsdマウス骨髄内の5TGM1-mKO1細胞を正常形質細胞と識別して確認し、5TGM1-mKO1細胞の増殖を確認できた。 骨髄血管周囲の間葉系幹細胞は骨髄細胞のCD45陰性Ter119陰性CD31陰性CD51陽性CD140a陽性分画に存在していることが報告されており、我々はKaLwRijHsdマウス骨髄から間葉系幹細胞をセルソーターで単離し、RNAを抽出した。同様に、C57BL6マウス骨髄から単離した間葉系幹細胞からもRNAを抽出し、それらの細胞の遺伝子発現をRNAシーケンス法で比較した。KaLwRijHsdマウスの間葉系幹細胞では、C57BL6マウスの間葉系幹細胞と比較して、いくつかの分泌タンパクの遺伝子発現が低下していることを確認した。これらの分泌タンパクのうち、発現量が低いことで5TGM1細胞の生存と増殖に有利に働く特定の分泌タンパクが存在しているものと現時点では考えている。現在、RNAシーケンス法で得られた候補分子の遺伝子発現変化を定量PCR法で再確認している。再確認できた候補分子については、タンパクを精製し、5TGM1細胞の増殖に与える影響についてin vitroで検証を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
RNAシーケンス法にてKaLwRijHsdマウスの間葉系幹細胞で発現低下が確認された分泌タンパクについて、定量PCR法で遺伝子発現変化を再確認し、候補遺伝子について絞り込みを行う。定量PCR法で再確認できた候補遺伝子については、タンパクの購入、または自らでタンパクの精製を行い、候補分泌タンパクを5TGM1細胞培養中に添加し、MTTアッセイ法やAnnexinⅤ/PI染色法を用いた解析などにより、5TGM1細胞の生存や増殖への影響についてin vitroで検証を行う予定である。骨髄腫細胞ではNF-kBシグナル経路やWnt/beta-cateninシグナル経路などの細胞増殖シグナル経路の活性化が報告されており、候補分泌タンパクのそれら既知の増殖シグナル経路や、これまで未報告のシグナル経路との関連性について解析を行う。 さらに、CRISPR法を用いて単離した正常間葉系幹細胞の候補分子の遺伝子を欠失させ、in vitroで5TGM1細胞と共培養し、5TGM1細胞の生存や増殖への影響を確認し、責任分子を同定する。その後、間葉系幹細胞特異的に遺伝子改変が可能であるNG2-Creやレプチン受容体-Creマウスを用いて、間葉系幹細胞特異的に責任分子をノックアウトし、ノックアウトマウスに5TGM1細胞を移植して生着と増殖を共焦点顕微鏡やフローサイトメーターを用いて確認することで、in vivoで骨髄腫の微小環境における責任分子の機能を明らかにする。上記実験で責任分子が治療標的となりうる可能性を確認できれば、責任分子タンパクの治療薬としての可能性について骨髄腫モデルマウスを用いたin vivoの実験系で確認を行う予定である。また、骨髄腫マウスモデルから得られた結果が、実際に骨髄腫患者の病態を反映しているかをヒト骨髄腫細胞株や多発性骨髄腫患者検体を用いて確認を行う。
|