Hmga2は休止期のない胎児造血幹細胞で強発現しており、胎児幹細胞の高い自己複製機能に必須の因子であるが、正常幹細胞における標的領域・遺伝子を含めたクロマチン制御機構は明らかではない。さらに、MDS/MPN幹細胞におけるHMGA2によるクロマチン制御・がん遺伝子群の発現ネットワークの仕組みは不明である。こうした研究状況にて、本研究では、HMGA2によるがん特異的クロマチン・転写因子ネットワークの確立によるがん幹細胞の発生と病態進展の分子メカニズムを 解明する。 Hmga2発現Tet2欠損造血幹前駆細胞のこれまでの解析により、Tet2存在/非存在下ではHmga2の結合領域が大きく変化しており、Tet2欠損下では自己複製能の亢進及び骨髄球形細胞への分化が阻害されるようにリモデリングが起こっていることを示してきた。また、正常造血幹細胞におけるHmga2 KI細胞の機能を解析したところ、競合的骨髄移植実験において野生型と比較し3回の連続移植においても高い自己複製能を維持することを認めた。また、5-FU投与によるストレス状況下でもHmga2 KI細胞は野生型と比較しより高い自己複製能を維持し、速やかな造血と骨髄組織の回復をもたらした。トランスクリプトーム解析より、Hmga2 KI造血幹細胞では野生型造血幹細胞に比して5-FU投与による炎症シグナルが顕著に抑制されていることが明らかとなった。炎症シグナルは造血幹細胞の自己複製能の減衰および分化促進に寄与することが知られており、Hmga2はストレス状況下において造血幹細胞を障害から守り、造血の維持と再生に寄与することが示された。 このように、Hmga2は成体の造血幹細胞において、外的ストレスや遺伝子変異による内的ストレスという様々な局面で新たな転写制御ネットワークを確立し、造血の維持と再生、そして病態発症へと寄与することが示唆された。
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