研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は、感染者のうち約5%に成人T細胞白血病(ATL)を引き起こす。急性型ATLは末梢血中のCD4陽性T細胞の異常増殖を特徴とするため、末梢血中のATL細胞は積極的に増殖していると考えられてきたが、実際にはATL細胞がどの組織で増殖しているかは不明であった。本年度は、ATL細胞が末梢血中よりもリンパ節で増殖していることを、以下の結果より明らかにした。1)沖縄県在住のATL患者の末梢血およびリンパ節から単離したATL細胞を用いて、細胞増殖のマーカーであるKi-67の発現を解析した。リンパ節ATL細胞ではKi-67陽性細胞が平均65.8%であったのに対し、末梢血ATL細胞では21.8%であった。また、急性型ATL患者の末梢血ATL細胞において、Ki-67を発現していない症例が13例中8例あり、末梢血ATL細胞は積極的に増殖していないことを明らかにした。2)急性型ATL患者の末梢血とリンパ節が同時に得られた検体を用いて、Ki-67の発現を解析すると、末梢血よりもリンパ節でKi-67を発現するATL細胞が多く見られた。これらの検体を用いてFoxp3の発現を比較したところ、末梢血ATL細胞とリンパ節ATL細胞の間で発現に差は見られなかった。3)急性型ATL患者の末梢血ATL細胞では、Kruppel-like factor 2/6およびForkhead box proteinなどのT細胞の休止期誘導に関わる遺伝子群の発現が上昇していた。これらの結果より、急性型患者のATL細胞は、リンパ節で増殖した後に末梢血中へ入ること、末梢血中のATL細胞は休止期に誘導されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
患者末梢血およびリンパ節から単離したATL細胞を用いて、ATL細胞がリンパ節で増殖していること、また、末梢血中のほとんどのATL細胞が休止期であることを明らかにした。本研究の結果は論文に取りまとめ、Cancer Gene Therapyへ投稿し、受理された。
今年度までにOX40を高発現する患者ATL細胞を選定した。これらの細胞が細胞増殖のマーカーであるKi-67を発現しているのかを解析し、OX40の発現が細胞増殖に関与するのかを明らかにする。
本年度は主に論文執筆を行ったため、物品費が抑えられた。次年度使用額は、本研究の目的をより精緻に達成するための研究の実施と論文掲載にかかる費用に充てる。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
Viruses
巻: 14 ページ: 751~751
10.3390/v14040751
Cancer Gene Therapy
巻: - ページ: -
10.1038/s41417-022-00475-0