研究実績の概要 |
慢性骨髄性白血病 (Chronic myeloid leukemia; CML) は、BCR-ABL融合タンパク質のチロシンキナーゼ活性に高度に依存する骨髄増殖性疾患である。チロシンキナーゼ阻害剤 (tyrosine kinase inhibitor; TKI) の登場により劇的に予後は改善したが、寛解の維持にはTKIの長期内服が必要であり、未だ中止することの明確なコンセンサスは得られていない。そこで本研究では、CMLの根治治療の開発に繋がる新たな理論的根拠の創出を目指した。特に慢性期CMLではTKI単剤でも病勢コントロールが可能であることから、BCR-ABLに対するoncogene addictionが成立している。このことから、CML細胞は、BCR-ABLのATP需要に対し、十分な細胞内ATPを供給できる機構を備えているはずであると考えた。実際、CML-blast crisis (BC) 由来細胞株では他の造血器悪性腫瘍細胞株と比較し、細胞内ATP濃度が高く維持されており、かつBCR-ABLを持たない細胞にexogenousにBCR-ABLを発現させるとAMPKが活性化され、細胞内ATP濃度の上昇がみられた。CML細胞の細胞内ATP濃度維持においてAMPKがその中心を担うと考えられた。またCML-BC細胞においてBCR-ABLは、ATPが十分に供給されている条件下では核内に局在していた。AMPKを活性化させるとBeclin1, 14-3-3, XPO1などと複合体を形成し、細胞質へ移行する。BCR-ABLが細胞質に移行した状態で細胞内ATPが枯渇すると、オートファジーによりBCR-ABLが分解され、細胞死が誘導されることになる。通常の細胞であれば、AMPKはmTORを阻害し、細胞増殖の抑制、かつオートファジーを誘導することができる。ところがCML-BC細胞株では、BCR-ABLはPI3K-AKT/mTORの経路を恒常的に活性化しているため、AMPKを活性化しただけではautophagic fluxは促進されなかった。CML-BC細胞においてautophagic fluxを促進するためには、TKIやmTOR阻害剤を用いてBCR-ABL/PI3K-AKT/mTORの経路を直接的に阻害する必要があった。
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