研究課題
フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative neoplasms:MPN)は、造血幹細胞の異常によって一系統以上の骨髄性細胞のクロ―ナルな増殖をきたす血液疾患である。2005年に、MPN患者において、サイトカイン受容体シグナル伝達において中心的な役割を果たす、チロシンキナーゼJAK2を恒常的に活性化する変異が見出された。この発見により、少なくともJAK2変異を有するMPN患者では、サイトカインシグナル伝達系の機能亢進によりMPNが発症していることが強く示唆され、その後のJAK2阻害薬の開発と、MPN患者への使用へと結びついた。しかしJAK2阻害薬は、患者の全身症状や脾腫を改善するものの、腫瘍細胞を完全に排除することができないことから根治に至らない。MPNの根本的な治療法としては、骨髄移植があるが、治療関連死のリスクや、移植不適応症例が多いことなどから、実際に移植の行われる症例はごくわずかである。これらのことから、MPN発症メカニズムの理解に基づき、完治を目指す新たな治療戦略の開発が望まれている。本研究課題では、一部のMPNの発症原因分子である変異型CALRについて、その腫瘍原性に必要なホモ多量体化の分子基盤を明らかにすると共に、それを標的とした治療概念の確立を目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、変異型CALRのホモ多量体化に必要なアミノ酸配列の同定を行った。さらに、変異型CALRの結晶構造解析に必要な組換え蛋白質の産生と精製、ならびに活性評価を行った。
3: やや遅れている
変異型CALRの溶液中での安定性が低く、解析を困難にしているため。加えて、変異型CALRに特異的な配列が、プロテアーゼによる特異的な切断を受けるため、全長型蛋白質の発現や精製を難しくしているため。
これまでの解析から、変異型CALRがかなり不安定な蛋白質であることが明らかになるとともに、不安定化に関与すると考えられる部位が明らかになってきた。そこで、より安定な蛋白質を発現するために、変異型CALRの腫瘍原性を維持した改変型の蛋白質を発現、精製することで、今後の解析を進める予定である。引き続き、変異型CALRの多量体化に必要なアミノ酸残基の同定と3次元構造の解明を行い、変異型CALRが多量体化する分子基盤の解明を行う。
緊急事態宣言発令等により研究中断期間が生じたことに加えて、蛋白質の安定性が悪く、解析が難航したことにより、計画通りに実験が進められなかったため。
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