食生活の異常は肥満や生活習慣病などの原因となるが、造血幹細胞に対する影響については十分理解されていない。我々は最近、高脂肪食摂取による腸内細菌叢の変化が造血幹細胞の自己複製能調節機構を破綻させることを見出した。本研究では食餌によって変化する腸内細菌由来代謝産物による造血幹細胞の恒常性維持機構について解明することを目的とする。目的達成のために、食餌の違いにより変化する腸内細菌由来代謝産物の造血幹細胞に及ぼす影響と分子メカニズム、および、加齢に伴う造血幹細胞障害への関与を明らかにする。本研究により食餌および代謝産物による幹細胞機能の調節が可能となることを目指す。 令和3年度は、加齢に伴って変化する腸内細菌由来代謝産物の探索を目的として、老齢マウスの血漿、および、20歳代から60歳代の健常人血清を用いて更なる代謝産物の網羅的測定を行った。老齢マウスを用いて、加齢に伴う腸内細菌由来代謝産物の変動を解析したところ、高脂肪食や高繊維食・低繊維食の摂取によって変動する代謝産物と共通するものを見出した。これらの代謝産物のうち、造血幹細胞エイジングの抑制に作用するものをin vitroでスクリーニングし、2種類の代謝産物を同定した。現在、in vivo投与により、老化表現型の抑制効果を検証している。また、健常人血清を用いた代謝産物の網羅的測定においては、20-30歳代と50-60歳代の間で有意差のあるイオンピークを同定し、化学構造の決定を進めている。令和3年度の研究成果により、食餌や加齢で共通して変動する腸内細菌由来代謝産物が存在し、造血幹細胞の機能制御に作用する可能性がある代謝産物を見出した。 研究期間全体を通して、適切な食生活がいかに造血幹細胞の恒常性維持に重要であるかを明らかにした。
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