研究課題
MLL融合遺伝子を有するヒト白血病細胞のマウス移植モデルを用いて解析を行った。TWEAK受容体であるFN14 (TNFRSF12A)を発現する白血病細胞は細胞の増殖に関与するFLT3遺伝子の発現が高く、FN14の白血病京成への関与が考えられる。FN14 の両アレルをノックアウトした白血病細胞株を作製し、この白血病細胞株を免疫不全マウスに移植し、骨髄への生着能や増殖能について検討したが、FN14ノックアウト細胞のマウスへの白血病発症能は保持されていた。FN14受容体の阻害剤を用いた実験ではFN14阻害剤により白血病細胞株の増殖能やマウスへの白血病発症能に影響は認めなかった。またMLL融合遺伝子を有するマウスES細胞から得られた未分化造血細胞を用いて、MLL融合遺伝子が造血前駆細胞を白血病化するために必要な遺伝子変異の同定を試みた。MLL融合遺伝子を有するマウスES細胞を未分化造血細胞を含むTie2陽性細胞へ分化させた後、インサートを持たないMSCVレトロウイルスベクターを導入しランダムな挿入変異を起こし、増殖能・白血病発症能を検討した。レトロウイルスによる挿入変異の導入によりクローナルな白血病の発症を認め、レトロウイルス挿入部位近傍の遺伝子の発現亢進が認められた。加えて、挿入変異を導入したマウス未分化造血細胞からは増殖能・自己複製能が亢進した細胞群が得られ、それらの細胞の解析でもレトロウイルスの導入により遺伝子発現の亢進が生じていることが示された。これらの結果より付加異常による遺伝子発現の亢進がMLL融合遺伝子による白血病形成に必要であると考えられた。MLL融合遺伝子陽性の白血病発症の遺伝的背景を検討するために、MLL融合遺伝子陽性の白血病患者およびコントロールの末梢血よりiPS細胞を樹立した。このiPS細胞を造血細胞へ分化させリンパ球への分化能や増殖能を現在検討している。
3: やや遅れている
白血病患者およびコントロールの末梢血を用いたいPS細胞の作製に当初計画よりも時間を必要としたため。
小児ALLの患者検体を用いて、症例毎にat risk多型の有無を確認後に、症例特異的な遺伝的背景を保持したiPS細胞を樹立する。iPS細胞の樹立に際しては遺伝的背景のみを反映する治療後の寛解時の末梢血検体を用いる。このiPS細胞を用いて、小児ALLの発症に関与する遺伝的背景が白血病の発生母地である造血幹細胞・前駆細胞にどのような影響(表現型・遺伝子発現パターンの変化等)を与えるのか明らかにする。患者細胞を用いて樹立したiPS細胞を造血系へ分化させ、遺伝的背景を有する造血前駆細胞を得る。このiPS細胞を用いて遺伝子発現アレイにて遺伝子発現パターンを解析する。白血病を発症せずかつrisk alleleを保持しないコントロール症例から樹立されたiPS細胞を対照として比較検討することにより、患者iPS細胞由来の造血前駆細胞で発現異常を認める遺伝子(群)およびパスウェイを同定する。患者およびコントロール検体由来のiPS細胞から得られた造血前駆細胞の網羅的な遺伝子発現パターンを比較することにより、白血病発症のat riskにある遺伝子発現パターンの把握と、関与する遺伝子の同定を試みる。白血病化における1st hitの遺伝子異常である融合遺伝子の形成メカニズムを解明するために、患者iPS細胞由来造血前駆細胞において、トポイソメラーゼ阻害剤や放射線等の刺激によるDNA切断・修復異常の有無をコントロールと比較し、遺伝的背景の関与について検討する。また形成された造血細胞の腫瘍化能をin vitroでの増殖能や分化能、および免疫不全マウスへの移植実験(ヒト化マウス)により判定する。
次年度使用額が生じた理由:白血病患者およびコントロールの末梢血を用いたいPS細胞の作製に当初計画よりも時間を必要としたため、またある程度の免疫不全マウス購入費を他の学内資金で振り分けることができたため、最終的に研究費に次年度使用額が生じた。使用計画:今年度も当初の研究計画通り、実験を継続する予定である。
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