研究課題
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は予後不良な疾患である。ATLに対する新規治療法の開発を目的として本研究を行った。Methyolthioadenosine phosphorylase(MTAP)遺伝子は、9番染色体単腕(9p21)に位置し、近傍のがん抑制遺伝子CDKN2A 遺伝子とともに様々な悪性腫瘍で欠損を認める。ATLにおいても一部の患者でMTAP 遺伝子の欠損や、MTAP mRNA発現低下が報告されている。MTAP 遺伝子欠損腫瘍細胞における治療標的分子として、近年、Protein arginine methyltransferase 5(PRMT5)が同定された。PRMT5は腫瘍細胞の生存や増殖に関わる分子である。すでに一部のがん種ではPRMT5阻害剤の有効性が報告され、PRMT5を標的とした創薬を目指して研究が進められている。本研究ではATLにおけるPRMT5の発現を確認するとともに、ATLに対するPRMT5阻害薬の効果を検証した。さらに、その作用機序を解析し更なる標的分子を試みた。我々は、ATL細胞株を用いた検討によってPRMT5阻害薬によるATL細胞の増殖抑制効果を確認した。その効果は、細胞死の誘導や細胞周期の抑制作用を介していた。さらに、網羅的な遺伝子発現解析によって、RPMT5阻害薬によるATL細胞の増殖抑制効果に関わるシグナル経路を検討し、新たな治療標的分子としてプロリン水酸化酵素PHD2を同定した。PHD2阻害薬は単独でATL細胞の増殖を抑制し、さらに、PRMT5阻害薬との併用で相乗的にATL細胞の増殖抑制効果を認めた。我々は本研究でPRMT5阻害薬によるATLの増殖抑制効果を確認するとともに、その分子機序の一旦を明らかにした。さらに新規の治療標的としてPHD2を同定し、ATLに対するPRMT5阻害薬とPHD2阻害薬の併用療法の可能性を示した。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
International Journal of Hematology
巻: 113 ページ: 765-769
10.1007/s12185-020-03075-6.