研究課題/領域番号 |
19K08872
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
黒田 純也 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70433258)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / RSK2 / 分子標的 / 創薬 |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫(multiple myeloma: MM)は既存の治療戦略による完治が困難な難治性造血器腫瘍である。研究代表者らは、先行研究においてMMでは染色体異常や分子異常の状態が多様で不均一であるにも関わらず、RAS/RAF/MEK/ERKシグナル経路の最後尾においてシグナル媒介分子として機能するセリン・スレオニンキナーゼ RSK2のN末端キナーゼドメイン(N-terminal kinase domain: NTKD)が恒常的に活性化しており、病態形成・治療抵抗性獲得を司っていること、分子腫瘍学的異常のパターンに関わらず普遍的な治療標的分子に成り得る可能性を見出した。しかしながら、ヒトに治療薬として投与可能な特異性の高いRSK2標的薬は存在しない。そこで、本研究では「MMに対するRSK2を標的とした創薬開発」を目指すこととした。具体的には、① MMにおけるRSK2被制御分子のメルクマールとしての候補化・特定、② 細胞ベースアッセイを用いたヒット化合物のスクリーニング、③ 候補化されたヒット化合物の中から、各種の異なる分子異常を有するMMにおいて横断的な抗腫瘍効果を有し、かつ、既存治療薬に対する抵抗性細胞に対しても有効な化合物をin vitro、ならびに前臨床モデルによって特定することによるMMに対するRSK2標的化リード化合物の選定、の大きく3段階のプロセスを本研究の行程として計画している。このうち、2019年度は①、すなわち、遺伝子発現ノックダウン、小分子化合物によるRSK2阻害によってM複数のM細胞株に普遍的に誘導される遺伝子発現変化を網羅的に解析し、その結果からRSK2阻害による抗腫瘍効果の際のメルクマールとなるRSK2被制御分子の候補化と、そのMM細胞における機能的意義の解明を行い、後述するように複数のメルクマール遺伝子の候補化に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4種類の染色体異常パターン、遺伝子異常パターンの異なるMM由来細胞株を選定し、複数のRSK2発現抑制レンチウイルスベクターを作成してRSK2発現抑制を試みた。このうち、いずれの細胞株においてもRSK2発現が転写、蛋白レベルで10~20%程度まで低減可能であり、かつ、細胞増殖抑制効果を発揮しうるベクターを2種類選定した。複数の細胞株において、これらの異なる2種のRSK2発現抑制ベクターによってRSK2の発現抑制した際のRNAを抽出し、RNA-seqで網羅的な発現変化の検討を実施したところ、異なる細胞株横断的に、また、異なるベクターを用いた場合にもRSK2発現抑制によってMM細胞の細胞生存、細胞増殖に重要な役割を担うことが既報で知られている2種の遺伝子の発現抑制、ならびに近年、がん抑制遺伝子としていくつかの他の悪性腫瘍で新たに注目されている1種の遺伝子(ここでは研究遂行上の秘密保持の観点から遺伝子Xとする)の発現誘導を認めることが明らかになった。また、こうした遺伝子発現変化が遺伝子発現ノックダウンに特有のものである可能性を除外するため、RSK2N末端キナーゼ活性に特異的な小分子阻害剤を用い、同様にこれらの分子の発現変化が複数の異なるMM由来細胞株で誘導されることを確認した。今後、RSK2阻害剤のスクリーニングを行う過程では、RSK2阻害によって発現上昇する分子がメルクマール分子として活用しやすいことから、遺伝子Xがメルクマールとして適切かどうか、その機能的意義を現在検討中である。すなわち、骨髄腫細胞においては遺伝子Xの機能的意義についての知見がこれまで皆無であることから、遺伝子Xのレンチウイルス発現ベクターを複数種作成し、その細胞増殖や細胞生存など細胞機能に与える効果を現在、検討中であり、徐々に新規知見を得つつあるところである。
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り、本研究は① MMにおけるRSK2被制御分子のメルクマールとしての候補化・特定、② 細胞ベースアッセイを用いたヒット化合物のスクリーニング、③ 候補化されたヒット化合物の中からのRSK2標的化リード化合物の選定、の3段階のプロセスで推進する予定であり、現在、遺伝子Xの骨髄腫細胞における機能的意義の解析中にあり、①におけるメルクマールの特定を進めているところである。今後、遺伝子Xが骨髄腫細胞においても癌抑制遺伝子としての機能を有し、メルクマールとして有意義であることが確認出来たら、今年度は遺伝子Xの発現を細胞レベルで容易に測定するため、メルクマール遺伝子のmRNA誘導がプロモーター活性化による場合はルシフェラーゼアッセイ、異なる場合はbranched DNA法を用い、化合物によるメルクマール遺伝子mRNAの発現変化を測定しうるシステムを構築する。この構築に成功したら、次に細胞ベースアッセイでメルクマール遺伝子の発現変化をもたらすヒット化合物候補を探索に研究を進める予定である。スクリーニングするヒット化合物候補としては、東京大学創薬機構、大阪大学創薬推進研究拠点、理化学研究所天然化合物バンク、NPO法人化合物活用センター、AMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム等の大規模化合物ライブラリーを活用する。
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