研究課題/領域番号 |
19K08875
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
宮田 敏行 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 客員研究員 (90183970)
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研究分担者 |
根木 玲子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 室長 (90600594)
辻 明宏 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医師 (70598367)
関根 章博 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, その他(移行) (30425631) [辞退]
小亀 浩市 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (40270730)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 静脈血栓塞栓症 / 血栓性素因 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
申請者らは、静脈血栓塞栓症患者や不育症患者の遺伝子解析を行い、1994年以降これまでに約150人の血栓性素因保有者を同定し、複数の患者にしばしば見られる変異として、PS p.Lys196Glu、PC p.Arg189Trp、PC p.Lys193del、PC p.Met406Ileを報告した。特に、PS p.Lys196Gluは日本人一般住民では約55人に1人がヘテロ接合体であり、中国人や韓国人には見られないことを明らかにした。これらの研究で用いたサンガー法を主体とする遺伝子解析法では、血栓症を繰り返す特発性血栓症症例でも遺伝子バリアントを同定できない例があり、その限界を感じていた。 次世代シークエンサー(next generation sequencer, NGS)はDNAを断片化した後、各断片について100 bp-400 bp程度の比較的短い塩基配列(”short read”)を決定し、これをreference sequenceに貼り付けることで、解析対象のゲノム配列を決定する。また、第三世代のシークエンサー(Third generation sequencer, TGS)は10 kb-50 kb の長いDNA断片の塩基配列(long read)を決定できる。本研究では、これら二つの手法を用いて静脈血栓塞栓症の候補10遺伝子からなる遺伝子解析パネルを確立する。現在のところ、NGSとTGSでの解析が進み多くの遺伝子バリアントが同定できている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
静脈血栓塞栓症の中でも特発性血栓症は、家系内多発、40歳以下の若年性発症、繰り返す再発、まれな発症部位の血栓という特徴を示し、先天性血栓性素因を有する場合が比較的多く、治療に抵抗性を示す場合がある。国立循環器病研究センターでは静脈血栓塞栓症患者の登録研究を進めており、この登録研究より特発性血栓症患者を選び出し、静脈血栓塞栓症の候補遺伝子の解析を行い、その遺伝的背景を明らかにし、患者の臨床転帰や治療指針(抗凝固療法の強度や期間など)を検討する。 静脈血栓塞栓症のパネルの候補遺伝子として10遺伝子を選定し、NGSとTGSで条件検討を進めた。10遺伝子は4種の凝固制御因子(アンチトロンビン、プロテインC、プロテインS、トロンボモジュリン)および6種の凝固因子である。TGSは遺伝子のエクソン領域に加え、プロモータ領域やイントロン領域も解析対象にするため、多くのバリアントが同定された。また、現在のところ、TGSにより複数の構造バリアントも同定された。現在のところ、NGSとTGSの両方で同定されたバリアントと片方の手法だけで同定されたバリアントがあるので、解析を継続している。 血栓性微小血管症である非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic syndrome, aHUS)の日本人患者(164人)で補体C9 p.Arg116Ter(p.Arg95Ter)のナンセンス変異をタイピングしHGVDに収められている日本人(1,210人)の遺伝子頻度と比較したとこころ、aHUS患者群の頻度が高いことが判明した(p=0.044)。
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今後の研究の推進方策 |
静脈血栓塞栓症の遺伝子解析のパネル解析をNGSおよびTGSで進めた。その結果、NGSもしくはTGSのどちらかだけで同定された遺伝子バリアントがかなりの数で見いだされた。プロテインS遺伝子では、塩基配列の相同性が極めて高い偽遺伝子が存在し、これがNGSやTGSのデータ解析を妨害している可能性が考えられた。どちらかだけで同定されたバリアントの多くはpathogenicとは考えられないものの、この点をなるべく解決するため、NGSおよびTGSのデータを再度解析し直す、また再度シークエンスを行うことも念頭において研究を進める。患者登録研究で構築している特発性血栓症患者の臨床症状(家系内多発、40歳以下の若年性発症、繰り返す再発、まれな発症部位の血栓)を考え合わせ、遺伝子バリアントの疾患発症における強度などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NGSとTGSによる遺伝子シークエンス解析のデータ解析に時間を使ってしまった。そのため、新たな患者の遺伝子解析を十分に進めることができなかった。患者登録は進んでいるので、最終年度は特発性血栓症患者の遺伝子解析を積極的に進める。
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