研究課題/領域番号 |
19K08890
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉本 桂子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (20383292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シェーグレン症候群 / BAFF受容体 / イオンチャンネル |
研究実績の概要 |
本研究は国により難病に指定されているシェーグレン症候群(SS)の根治を目指し、研究グループが所有する低分子化合物(化合物AおよびB)を用いて、患者末梢血単球での異常が寄与する病態形成機構を明らかとし、創薬標的分子を探索することを目的とする。SSでのB細胞機能亢進は病因の一つであり、それにはB細胞活性化因子(BAFF)が強く関与している。研究代表者はすでにSS患者末梢血単球におけるBAFFシグナルの活性化がB細胞機能亢進に関与し、化合物AおよびBがこの作用を抑制することを見出している。さらに自己抗体産生モデルマウスを用いて化合物A、Bが自己抗体産生抑制作用を有することから、これらの化合物はSS治療薬開発に向けた有望なリード化合物となり得ると考えている。一方で既承認のイオンチャンネル阻害薬のBAFFシグナル阻害作用を示した知見から、化合物A、Bのイオンチャンネル阻害活性を検討し、これらの化合物がNavチャンネル阻害活性も有することを示した。そこでこれらの化合物を用いて、単球におけるBAFFおよびNavチャンネルシグナルのクロストーク機構の解明に着手した。本年度は以下の知見を得た。1)SS患者末梢血単球では健常人と比較してBAFF受容体(BR3)とNavチャンネル発現が上昇しており、単球でのBR3およびNavチャンネル発現量には有意な正の相関がある、2)SS患者単球ではBAFF刺激によりNavチャンネル発現が上昇する、3)Nav阻害剤はBAFF刺激単球が起因するB細胞からのIgG産生亢進を抑制する、4)Nav阻害剤はBAFFを含めたB細胞刺激によりナイーブB細胞から抗体産生細胞であるプラズマ細胞への分化促進を抑制することによりB細胞からのIgG産生を抑制する可能性がある。これらの成果により、次年度は単球およびB細胞でのBAFFシグナルとNavシグナルの共通分子の探索を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では本年度はSS患者単球におけるBAFFシグナルとNavシグナルのクロストークの詳細を明らかにすることを目標と定めている。以下に成果の詳細を記載する。 1)SS患者末梢血でのBAFF受容体(BR3)とNavチャンネルについて、定量PCR法およびFACS法を用いて遺伝子およびタンパク質レベルでの発言検討を実施した。その結果、患者単球でのNavチャンネル遺伝子およびタンパク質発現量は健常人と比較して有意に上昇していた。また患者単球でのBR3発現とNavチャンネル発現率は有意な正の相関が認められた。2)患者末梢血単球でのBAFFによるNavチャンネル発現亢進作用を確認した。SS患者由来の末梢血単球にBAFF刺激を加え、Navチャンネル発現について定量PCRおよびFACS法を用いて検証した。この結果、患者単球における遺伝子およびタンパク質レベルでNavチャンネル発現はBAFFにより亢進されることが明らかとなった。またBAFF刺激SS患者単球では健常人と比較してNF-kb経路に関与する分子の発現の亢進が認められた。3)BAFF刺激SS患者由来の末梢血単球と共培養した患者B細胞からのIgG産生は化合物A、BおよびNavチャンネル阻害剤により抑制されることが明らかとなった。4)患者末梢血単核球に化合物A、B、またはNavチャンネル阻害剤存在下でBAFFを含むB細胞に特化した刺激を加えたところ、plasmablastおよび形質細胞の割合が減少し、IgG産生量も抑制することが明らかとなった。この条件下では全ての化合物でNF-kb経路およびクラススイッチに関与する分子の発現が抑制され、患者単球ではBAFFとNavチャンネルシグナルの共通分子が存在し、それはB細胞の分化やIgG産生にも関与することが示唆された。これらの結果より、本研究の本年度の進捗状況は計画通りであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
第1年次に見出した末梢血単球におけるBAFF受容体(BR3)を介したシグナルとNavチャンネルを介したシグナルの共通分子について、次年度は患者末梢血単球および健常人単球におけるこれらの分子発現を比較検討する。また、それらの阻害剤やsiRNAを導入することにより、単球やB細胞の活性化に対する影響を検討する。具体的には末梢血単球を分離しBAFFによる刺激培養の際、シグナル共通分子の阻害剤やsiRNAを導入し、単球からのBAFFによる炎症性サイトカイン産生亢進に対する抑制効果およびNavチャンネル発現に対する効果を遺伝子およびタンパク質レベルで検討する。さらにBAFF刺激単球とB細胞の共培養系を用いて、BAFFおよびNavチャンネルシグナルの共通分子を阻害することによるIgG産生促進の抑制効果を検証する。一方でNavチャンネル発現率とSSの病態との関連性を検討するため患者臨床情報と比較し、病態におけるNavチャンネルの役割を検討する。さらにBAFF刺激を加えた患者および健常人単球を用いて、遺伝子発現の網羅的解析を実施し、患者群で発現が亢進した遺伝子を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1年次の研究実施およびその解析が順調に進捗し、次年時に網羅的解析を実施できる見通しがたったため、次年時の網羅的解析を実施する費用の一部として使用する計画とした。
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