研究課題/領域番号 |
19K08897
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
吉田 侑矢 摂南大学, 薬学部, 講師 (50581435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フィンゴリモド / FTY720 / 免疫寛容 / 寛解 / IL-10 / 骨髄由来免疫抑制細胞 |
研究実績の概要 |
これまでにglucose-6-phosphate isomerase peptide (GPI325-339) 誘導性関節炎マウスに対して、フィンゴリモド(FTY720)と病因抗原(GPI325-339)で治療すると、T細胞増殖抑制能を有するIL-10高産生性T細胞(GITR+CD25-(or Foxp3-) CD4+T細胞)および骨髄由来免疫抑制細胞(CD11b+Gr-1+細胞)が増加することを明らかとしている。本年度は、昨年度に引き続き、本併用治療で増加する細胞の特性や機能について調べた。以下、その結果を示した。 1)IL-10高産生性T細胞について。GITR+CD25-CD4+T細胞由来の液性因子全体としてT細胞増殖抑制にはたらくか否かを、細胞間の直接の接触を抑制した状況下(Transwellシステム)で共培養して調べた。その結果、GITR+CD25-CD4+T細胞と共培養した方が、GITR-CD25-CD4+T細胞あるいはGITR+CD25+CD4+T細胞との場合よりも未分裂細胞の割合がわずかではあるが有意に高かった。このことから、GITR+CD25-CD4+T細胞由来の液性因子がT細胞増殖に抑制的にはたらくことが明らかとなった。 2)CD11b+Gr-1+細胞について。昨年度までに、ⅰ)本併用治療で増加するCD11b+Gr-1+細胞は、CD369の発現が高く、T細胞増殖抑制能が高いことおよびⅱ)骨髄細胞をGM-CSFで刺激すると、CD11b+Gr-1+細胞上のCD369の発現が上昇することを明らかとしていた。本年度は、同様の方法で骨髄細胞を刺激するとCD369+CD11b+Gr-1+細胞上のCD11cの発現が上昇することを明らかとした。また、骨髄細胞から誘導されたCD11c+CD369+CD11b+Gr-1+細胞は、CD11c-CD369+CD11b+Gr-1+細胞よりもT細胞増殖抑能が低いことが明らかとなった。このことから、CD11cの発現の有無がT細胞増殖抑性能の指標になると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初研究実施計画: 2019年度~2020年度にかけて、FTY720と病因抗原との併用治療で増加するIL-10高産生性T細胞およびCD11b+Gr-1+細胞を特徴付ける分子の抽出ならびにそれらの機能について、RNA-seq解析、フローサイトメトリー解析等で明らかとする。 達成度:IL-10高産生性T細胞については、昨年度までに、GITR+CD25-CD4+T細胞集団の中でも特にIL-10を高産生する分画を明らかとしていた。昨年度立てた今後の研究の推進方策では、その細胞集団のT細胞増殖抑制能を調べる予定であった。しかし、そこまで絞り込んでもIFN-γやIL-4の産生能が高いかつミクロな細胞集団であることから解析対象をGITR+CD25-CD4+ T細胞に切り替え、液性因子全体として、抑制的にはたらくか否かについて調べるに至った。CD11b+Gr-1+細胞については、昨年度までに、本併用治療で増加するCD11b+Gr-1+細胞上のCD369の発現が上昇することを明らかとしていた。昨年度立てた今後の研究の推進方策では、CD369の発現意義に着目し、リガンド分子等を用いて、CD369を介したシグナルが抑制機能発現へ及ぼす影響を詳細に調べる予定であった。しかし、骨髄細胞を用いた検討から、CD369+CD11b+Gr-1+細胞上のCD11cの発現変化が確認されたため、CD11cの発現の有無がT細胞増殖抑制に及ぼす影響について、優先して調べるに至った。また、その結果から、本併用治療個体内でのCD11b+Gr-1+細胞上のCD369とCD11cの発現変化を解析する必要性が生じたが、詳細な解明に至っていない。新型コロナウイルス感染症の影響により、研究の実施制限があり、やや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
当初2021年度研究実施計画:2019年度~2020年度にかけて得られた知見の一般性を他の自己免疫疾患モデル(多発性硬化症モデルの実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE)等)を用いて明らかとする。 研究推進の方策: 当初の研究実施計画を変更し、まずは2020年度に得た知見をもとにCD11b+Gr-1+細胞に関する研究を遂行する。すなわち、GPI325-339誘導性関節炎マウスをFTY720とGPI325-339との併用で治療し、鼠径リンパ節内のCD11b+Gr-1+細胞上のCD369およびCD11cの段階的な発現変動の詳細をフローサイトメトリー解析で明らかとする。また、マクロの観点から、本併用治療によってリンパ節内でT細胞増殖抑制能を有するIL-10高産生性のGITR+CD25-CD4+T細胞およびCD11b+Gr-1+細胞の割合が増加することが、リンパ節内のサイトカインバランスに及ぼす影響を調べる必要があると考えた。従って、GPI325-339誘導性関節炎マウスに対して、本併用療法によって起こる現段階で明らかとできている現象の一般性を確認する前に、前文で示した内容について、リアルタイムPCR解析等を用いて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 新型コロナウイルス感染症の影響により、研究の実施制限があったため、2020年度実施予定であった動物を使用する研究計画について、一部実施できていない。 使用計画: 今後の研究の推進方策に示したように、まずは2020年度実施できていないGPI325-339誘導性関節炎マウスをFTY720とGPI325-339との併用治療した際の鼠径リンパ節内のCD11b+Gr-1+細胞上のCD369およびCD11cの発現変動の解明を優先し、前年度繰越金をその物品費に充てる。また、翌年度分として請求した助成金は、前述のような治療をした際に生じる鼠径リンパ節内のサイトカインバランスの変化について解析するための物品費に充てる。
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