研究課題/領域番号 |
19K08905
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 真生 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10332719)
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研究分担者 |
高橋 智聡 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)
杉本 直俊 金沢大学, 医学系, 准教授 (80272954)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DIP2 / FSTL1 / 上皮間葉転移 / 関節滑膜 / 関節リウマチ |
研究実績の概要 |
関節リウマチ(RA)における関節炎の慢性化をきたす機序に、炎症の場を与える関節滑膜に注目し研究を進めている。RAにおける滑膜では形態的な異常と機能的な異常の2面があると考える。すなわち前者については関節腔を包む単一細胞層の形態が損なわれ(上皮間葉移行、EMT)、異常増殖して腫瘍のようなパンヌスと呼ばれる組織を形成すること、後者についてはDNAの低メチル化等による炎症関連遺伝子の非可逆的活性化や、代謝変化による免疫制御反応の低下である。これら機能的な異常は、免疫老化とも換言しうるものであり、RAの治療耐性の観点で重要である。研究代表者はRAの滑膜自己抗原として1998年にFSTL1を同定、2010年にその結合分子であるDIP2を同定、そして近年DIP2がEMTに関わると知られるSNAIと結合することを見出した(投稿準備中)。DIP2は上述の免疫老化の2つの機構に関与するハイブリッド分子と考えられ、そのDMAP結合ドメインにSNAIを介したDNAメチル化分子DNMTを制御する機構があり,acetyl-CoA活性のあるCaiC-AMP結合ドメインにカルニチン代謝を制御する機構がある。カルニチンはT細胞においてセラミドの産生を阻害することにより細胞内シグナル伝達を低下させる報告がある。FSTL1、DIP2、SNAI、DNMTの相互作用、そしてDIP2のカルニチン代謝制御を解析し、RAにおける関節滑膜の形態的および機能的異常をきたす機序を分子生物学的に解明すること、そして慢性炎症をリセットするような難治性RAのための新規な治療作用点を探求することを目標に研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
DIP2分子ファミリーおよびSNAI分子ファミリーのうち、関節滑膜細胞ではそれぞれDIP2CとSNAI2が有意に発現しているため、それぞれのリコンビナント蛋白を入手する必要があった。SNAI2は市販品があったが、当初DIP2Cには市販品がないため、リコンビナント蛋白を大腸菌発現系にて作製を進めていた。人的資源不足もあり遅々として進行せず、そうこうするうちに米国 MyBioSource 社より真核細胞発現のDIP2Cリコンビナント蛋白が発売されたため、それを購入した。 関節リウマチ患者滑膜細胞を使用する前に、滑膜肉腫細胞株SW982(ATCC HTB-93)へのDIP2C遺伝子導入実験を行ったが、本細胞では形質変化の観察が困難であった。やはりEMT研究で確率されたプロトコルのあるA549ヒト肺癌細胞株をまず使用することとし、A549細胞を用いたTGF-β刺激によるEMT実験のマイクロアレイデータを解析した。
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今後の研究の推進方策 |
FSTL1、DIP2、SNAI、DNMT分子間の相互作用とその結果としての生理作用については、基礎的で細胞生物学的なものであり、関節リウマチ研究にとどまらない。よって対象とする細胞も滑膜細胞にこだわらず、知見の多い細胞を用いた再現性のある実験系を構築中である。具体的にはEMT研究で確率されたプロトコルのあるA549ヒト肺癌細胞株を使用する。A549細胞を用いたEMT実験のマイクロアレイデータを解析すると、TGF-β刺激によって、DIP2A/B/CやDNMT1/3Aの発現はほとんど変化がないものの、FSTL1やSNAI1/2およびDNMT3Bの発現は有意に亢進していた。よってEMTにおいてDIP2A/B/Cの発現変化は関係なく、DIP2A/B/Cの結合分子であるFSTL1やSNAI1/2の発現変化に意義があると予想された。一つの可能性として、FSTL1が細胞外分子としてDIP2A/B/Cの細胞局在を変えることによって、SNAI1/2がDNMT3Bと結合しやするする可能性がある。この仮説を検討するため共焦点顕微鏡による分子局在の解析を計画している。本命の関節滑膜細胞については、関節リウマチおよび対照の変形性関節症患者滑膜細胞にYAP遺伝子と導入し複数の株化細胞を樹立し、再現性のある実験を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ禍のための人員不足より、研究計画の進捗が大幅に遅れたため。
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