研究課題/領域番号 |
19K08919
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 由美 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (70826156)
|
研究分担者 |
吉本 桂子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (20383292)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | シェーグレン症候群 / BAFF受容体 / 単球 / TLR |
研究実績の概要 |
本研究は指定難病であるシェーグレン症候群(SS)の組織障害機序への単球の寄与の詳細な機構の解明を通して新規治療標的の探索を行うことを目的としている。SSの主腺病態は炎症性細胞の涙腺や唾液腺などへの浸潤が原因とされるが、その詳細な機序は不明で、患者のQOLの回復を達成できる治療薬が未だに存在していない。研究チームはこれまでSS患者末梢血単球ではBAFF受容体(BR3)発現が亢進しており、このことが単球そのものやB細胞の活性化に重要な役割を担っていることを見出した。一方でSSの発症にはウィルス感染の関与や病変部位でのTLR発現亢進に伴う炎症性サイトカインの発現亢進などが報告されており、単球における自然免疫システムの活性化が病態形成に関与すると推測される。そこで、単球のBR3発現亢進に関与する自然免疫機構を明らかにすることが本研究の目的の達成につながると考えた。 本年度は次に挙げる成果を得た。1)ヒト単球系細胞株THP-1においてTLR4刺激を加えた場合、CD16陽性細胞群の増加とこの細胞群でのBR3発現亢進を認めた、2)THP-1にTLR4刺激を加えるとTRL4と会合するMyD88発現上昇とそのシグナルの下流にある分子のリン酸化が認められ、TLR4阻害剤によりBR3発現と下流分子のリン酸化が抑制された、3)SS患者単球では健常人と比較してTLR4について遺伝子レベルおよびタンパクレベルでの発現が高い、4)患者末梢血単球におけるTLR4発現はCD14++CD16+ intermediate monocyteに局在する4)健常人単球をLPS刺激した場合、TLR4を介したシグナル分子のリン酸化とCD14++CD16+intermediate monocyteにおけるBR3発現亢進が認められた。以上の結果より、BR3発現亢進機構でのTLR4シグナル分子の関与が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では本年度は昨年度に続き、SS患者末梢血単球におけるBR3発現機構へのTLR4の関与を詳細に検証することを目標と定めている。以下に成果の詳細を記載する。1)ヒト単球系細胞株THP-1にLPSによるTLR4を介した刺激を加えた場合、CD16陽性細胞群の増加とこの群におけるBR3発現亢進を認めた。2)LPS刺激を加えたTHP-1において、TLR4と会合するMyD88発現とその下流のシグナル分子であるIRAK4のリン酸化亢進が認められた。3)TLR4阻害剤であるTAK242存在下でTHP-1にLPS刺激を加えると、MyD88発現およびIRAK4リン酸化が抑制され、CD16陽性細胞群の減少とBR3発現抑制が認められた。4)健常人およびSS患者末梢血単球におけるTLR4発現をFACS法および定量PCR法を用いて解析したところ、FACS解析によりTLR4発現はCD14++CD16+intermediate monocyteに局在し、qPCRによりSS患者単球におけるTLR4発現が遺伝子レベルでも有意に高いことが明らかとなった。5)健常人末梢血単球にLPS刺激を加えると、MyD88発現亢進およびIRAK4リン酸化亢進が認められ、CD14++CD16+intermediate monocyteでのBR3発現亢進が誘導された。以上の結果よりSS患者単球におけるBR3発現亢進はTLR4を介したシグナル経路が関与しており、炎症性単球と言われるCD14++CD16+intermediate monocyteの役割が重要であることが示唆された。上記より本研究は計画通りに順調に進捗していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
第1年次および2年次の研究成果として、SS患者末梢血単球におけるBAFF受容体(BR3)発現亢進機構にTLR4とその下流に会合するMyD88分子、さらに下流のIRAK4分子が関与する可能性を示唆する知見を得た。これを踏まえ次年度はSS患者および健常人単球でのTLR4刺激下で活性化するタンパク質の網羅的解析を実施する一方で、候補分子として挙がっているIRAK4発現について患者群と健常人群での比較解析を実施する。また患者の臨床情報とTLR4発現とTLR4シグナル分子発現の相関を検討し、これらの分子の病態への寄与を明らかにする。さらにIRAK4など候補となるタンパク質について治療標的としての有用性を検証するため、siRNAを合成し単球由来細胞株THP-1に導入してLPS刺激下でのBR3発現解析とサイトカイン産生など細胞の機能に対する作用を解析する。また既承認薬ライブラリーを用いて、LPS刺激THP-1における候補タンパク質のリン酸化など活性を阻害する作用を有する薬剤のスクリーニングを実施し、候補となる薬剤のBR3発現抑制効果を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
第1年次および2年次の成果により、ヒト単球系細胞株を用いたスクリーニングを実施する目途がたったため、スクリーニングに必要な化合物の購入資金の一部を次年度に繰り越したため。
|