本研究は指定難病であるシェーグレン症候群(SS)の組織障害機序に対する単球が寄与する機構の解明と新規治療標的の探索を目的としている。研究チームはこれまでSS患者末梢血単球ではBAFF受容体(BR3)発現が亢進しており、疾患活動性など臨床指標と相関することを見出した。一方、SSの発症や炎症病態にはTLR発現亢進に伴う炎症性サイトカインの発現亢進などの関与が知られていることから、単球のBR3発現亢進に関与する自然免疫機構を明らかにすることが本研究の目的の達成につながると考えた。本研究では次の知見を得ることに成功した。1)ヒト単球系細胞株THP-1に対しLPSによるTLR4刺激を加えた場合、CD16陽性細胞群の増加とこの細胞群でのBR3発現亢進を認めた。2)LPS刺激THP-1おいて、TLR4シグナル経路の分子のリン酸化が認められ、TLR4阻害剤によりBR3発現とTLR4シグナル分子のリン酸化が抑制された。3)SS患者単球では健常人と比較してTLR4およびアダプター分子であるMyD88について遺伝子レベルでの発現が高い。4)SS患者末梢血単球におけるTLR4およびBR3発現はCD14++CD16+ intermediate monocyteに局在し、この単球サブセットにおけるTLR4およびBR3陽性率は健常人および活動期SLE患者と比較して有意に高い。4)SS患者末梢血CD14++CD16+単球におけるTLR4とBR3発現率は強い正の相関を示した。5)健常人およびSS患者末梢血単球をLPS刺激した場合、TLR4を介した複数のシグナル分子のリン酸化が認められ、患者単球におけるTLR4シグナル分子のリン酸化は健常人と比較して亢進していた。以上の結果より、SS患者末梢血単球におけるBR3発現亢進にはCD14++CD16+ 単球やTLR4経路が関与している可能性があることが示された。
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