研究課題/領域番号 |
19K08928
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
後藤 敏 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (00211920)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | パラインフルエンザウイルス1型 / Cタンパク質 / インターフェロン / JAK1 / TYK2 / IFNAR2 / レスピロウイルス |
研究実績の概要 |
レスピロウイルスのCタンパク質は、Ⅰ型インターフェロン(IFN)応答経路を阻害する。本年度は、マウスパラインフルエンザウイルス1型(mPIV1)のCタンパク質について、その標的分子と阻害メカニズムに焦点をあてて研究をすすめた。 応答経路の伝達分子のうち、CはSTAT1とJAK1、IFNAR2に結合した。複数の荷電アミノ酸をアラニンに置換したCm3からCm9までの7個の変異体、および170番目のアミノ酸をFからSに置換したCF170Sの変異体を作成した。これらの変異体のうち、Cm5とCm8、CF170Sが応答経路阻害能を喪失していた。一方、STAT1結合能はCm5、Cm6、Cm7、Cm8で失われていた。CはJAK1のキナーゼドメインに結合していたが、その結合には未知の分子が介在している可能性が示唆された。Cm5、Cm7、Cm8、CF170SではJAK1結合能が失われていた。STAT1やJAK1に対する結合能を失っても応答経路阻害能を保持している変異体(例えばCm7)が存在することから、STAT1やJAK1は真の標的ではないと考えられた。一方、IFNAR2結合能はいずれのC変異体でも保持されており、標的分子の候補としてIFNAR2は残されることになった。 I型IFN応答経路を活性化すると、レセプター結合キナーゼJAK1、TYK2がチロシンリン酸化され、次に転写因子STAT1、STAT2がチロシンリン酸化される。これら4分子のチロシンリン酸化はCの存在下で抑制されていた。さらに4分子に対する変異体のリン酸化抑制能を調べると、経路阻害能と完全に一致することがわかった。以上から、mPIV1CによるI型IFN応答経路の抑制には、JAK1、TYK2のチロシンリン酸化抑制が重要であること、さらにこれらの抑制活性の発現はIFNAR2との相互作用が基盤になっている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mPIV1C変異体の解析から、Cの真の標的は、JAK1やSTAT1である可能性は低いことがわかり、3分子のうちIFNAR2のみが候補として残された。また、Cの阻害能には、レセプター結合キナーゼJAK1、TYK2の活性化抑制が重要であることから、Cはレセプター直下で作用していると考えられた。JAK1、STAT1、IFNAR2の3つの標的分子候補の中から、ひとつの標的分子に絞れたことと、阻害ステップが明らかになったことから、初期の目標は概ね達成できたと考える。しかしながら、作成した変異体の中に、IFNAR2との結合能を失った変異体が見つからなかったため、IFNAR2が真の標的であることを積極的に示す証拠を得ることはできなかった。また、レセプター直下でCが作用しているといっても、レセプター結合キナーゼであるJAK1やTYK2のチロシンリン酸化を実際どのように抑えているのかは、はっきりしていない。IFNAR2以外の未知の分子が標的である可能性も含め、2020年度以降、これらの問題についても検討していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、前年度に提起された問題とともに、初期に設定した実験計画を丁寧にすすめていきたい。 レスピロウイルス属のヒトパラインフルエンザウイルス1型(hPIV1)とヒトパラインフルエンザウイルス3型(hPIV3)のCについてmPIV1と同様な変異体を作成する。次にこれらの変異体とIFN応答経路のシグナル伝達分子との結合を調べ、標的分子候補を明らかにする。特にIFNAR2が共通の標的になっているかどうかに着目して検討する。さらに、IFN刺激によるJAK1、TYK2、STAT1、STAT2のチロシンリン酸化に対するhPIV1C変異体、hPIV3C変異体の影響等を詳細に解析することにより、hPIV1CとhPIV3Cの阻害機構を明らかにする。 最近、mPIV1Cは、IFNAR2の細胞質側265番目から346番目のアミノ酸の領域に結合することを明らかにした。IFNAR2の細胞質側の領域は、JAK1やSTAT2が相互作用する部位でもあるので、CとIFNAR2との相互作用により、IFNAR2とJAK1との相互作用やIFNAR2とSTAT2との相互作用が妨害されていないかどうかについても検討したい。こうした検討により、CとIFNAR2の相互作用がどのようにJAK1、TYK2のチロシンリン酸化抑制につながっているのかを理解できるかもしれない。
|