我が国ではインフルエンザ罹患患児の重症化による死亡が問題となっているが、その発症機序については不明である。最近、研究代表者はプリオン蛋白質遺伝子欠損(PrP-KO)マウスにインフルエンザAウイルス(IAV)を感染させた結果、野生型マウスと比較して致死率が著明に高いことを見出した。さらに、マウスへの抗プリオン蛋白質抗体(抗PrP抗体)の投与で、野生型マウスではIAV感染後の致死率の大幅な低下が認められたが、PrP-KOマウスでは治療効果が認められなかったことから、PrPはインフルエンザの重症化の治療標的となる可能性が高い。そこで本研究ではインフルエンザ重症化の発症機序の解明を目的とし、抗PrP抗体の作動機序について解析を試みた。 研究代表者は、抗PrP抗体を前投与したIAV感染マウスの肺において、何らかの浸潤性細胞でSrc family kinase (SFK)タンパク質のリン酸化が起こること、これがIAV重症化の軽減に重要であることを見出した。さらに、SFKのリン酸化抗体と浸潤性(免疫)細胞系マーカーとの二重免疫組織染色を行った結果、この浸潤性細胞がマクロファージであることを見出した。さらに、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析を実施し、このマクロファージが抗炎症性(M2)マクロファージに分極していることを確認した。すなわち、IAV感染で重症化するマウスでは炎症性(M1)マクロファージが増加して「サイトカイン・ストーム」を引き起こすものと考えられるが、抗PrP抗体はマクロファージに作用してM1マクロファージへの分極を抑制し、M2マクロファージの分極を誘導して「サイトカイン・ストーム」を回避する効果があることを実証した。
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