研究課題
これまでベトナムで流行しているHIV-1のコレセプター利用性の解析を行い、ベトナムではX4ウイルスの頻度が他の国より高いこと、また、HIV-1感染個体の血漿中に存在しているCCR5を使用するR5ウイルス以外に、一部の症例ではわずかながら存在しているCXCR4のみを利用するX4ウイルスが血漿から分離されることをベトナムの感染血漿を使用して明らかにしてきた。このことは、ウイルスのコレセプター利用性のX4ウイルスへのスイッチが起こる症例では複数種のウイルスが個体内で共存・維持されていて、その中でそれぞれの個体内環境に適応しているウイルスが選択されているのではと考えられた。ところでHIV-1の感染は一般に、粘膜を介したR5ウイルスにより伝搬されることが知られている。しかしながら麻薬常用者では血液-血液を介した直接的な感染であり、X4ウイルスの直接的伝播の可能性が高いと考えられる。また麻薬常用者ではHIV-1感染機会が多いと考えられ、複数種のウイルスが感染している可能性が高い。そこで本年度は、麻薬常用者の混合感染の頻度について解析を行った。ベトナムのサブタイプA/E感染麻薬常用者の血漿vRNAからcDNAを合成し、HIV-1のV3領域をPCRで増幅し、そのアミノ酸配列を決定した。さらに組み換えHIV-1を作製し、そのコレセプター利用性を決定し、複数のウイルスが混合感染している頻度を解析した。結果、麻薬常用感染者の41例中CXCR4利用性ウイルスが検出されたのは19例(46%)、そのうち7例が混合感染 (R5+X4)症例で、全体の17%、CXCR4利用性ウイルス中では37%と高率であった。また混合感染症例が単独感染症例に比較してウイルス量が有意に高いことが示された。このことはX4ウイルスとR5ウイルスが同一個体の異なるコンパートメントに感染し、ウイルス量が増大する可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
麻薬常用者ののコレセプター利用性についてはほぼ解析が終わったことから、おおむね順調に研究は推移していると考えられる。
今後はそれぞれ混合感染をおこしている症例についての感染性ウイルスを作製し、どのようなコンパートメントに感染しているか解析予定である。またAIDS症例で、X4ウイルスへコレセプタースイッチしている症例の感染血漿からvRNAを抽出し、その中にマイナー集団としてR5が残存している症例を次世代シークエンサーを利用して解析していく予定である。
本年度は研究内容的に予算を低く抑えることができたが、来年度は次世代シークエンサーを使用した解析など、コストが高くなることが予想されるため、次年度使用額として計画的に残すことにした。
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