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2019 年度 実施状況報告書

広域スペクトル活性を有する高病原性ウイルス感染症治療薬の開発

研究課題

研究課題/領域番号 19K08940
研究機関北陸大学

研究代表者

大黒 徹  北陸大学, 薬学部, 教授 (80291409)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードサイクリン依存性キナーゼ / サイトメガロウイルス / コロナウイルス / ファビピラビル
研究実績の概要

ヘルペスウイルスは、感染すると前初期→初期→後期の順で遺伝子発現を行う。βヘルペスウイルスに属するヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、幼小児期に不顕性感染の形で感染した後潜伏感染し、臓器移植患者やエイズ患者等の免疫抑制状態下で再活性化して、間質性肺炎や網膜炎等の種々の病態を引き起こす。治療には、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、レテルモビルが用いられるが、遺伝子変異により薬剤耐性化したHCMV の出現が問題となってきている。一方、γヘルペスウイルスに属するEpstein-Barrウイルス(EBV)は、伝染性単核症やバーキットリンパ腫を引き起こす。
これまでの研究で、フラボノイドの一種のトリシンが、HCMVの増殖を阻害すること、そしてその抗ウイルス効果がヘルペスウイルスのようなDNAウイルスのみならず、インフルエンザウイルスやその他のRNAウイルスにも広く抗ウイルス作用を有し、その標的が宿主のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)-9であることを明らかにしてきた。
近年の研究で、いくつかのCDK阻害剤がEBVの転写を抑制することが報告され、ウイルスの後期遺伝子の転写を制御するウイルス転写開始前複合体(v-PIC)が関わっているということが明らかにされてきた。βヘルペスウイルスとγヘルペスウイルスではv-PICが保存されているため、EBVの転写を抑制するCDK阻害剤は、HCMVの転写も抑制する可能性があるので解析を行った。3種類のCDK阻害剤は、濃度依存的にHCMVの増殖を抑制し、特にCDK1/2iとCDK2/9i の抗HCMV活性が高かった。また、定量RT-PCR の結果から、CDK阻害剤3種類の中でCDK2/9iとA2CEは、HCMVの後期遺伝子であるUL75とUL99の転写を0.03~0.1μM で濃度依存的に抑制した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

既存の抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスのタンパク質を標的にしており、薬剤耐性ウイルスの出現が大きな問題となってきている。ウイルスのゲノム複製を標的にした既存薬とCDK 阻害剤とは作用機序が全く異なるため、薬剤耐性ウイルス対する効果のみならず、既存薬との相乗効果も期待できる。今後、宿主CDK を標的とした抗ウイルス剤は十分有望と考えられる。
一方で、2003年のSARS感染患者が香港からカナダへ渡り流行を広めたことや、2015年の韓国でのMERSの流行から、日本でもこのような感染症の流入は十分に予想できていた。そのため、ヒトコロナウイルス229E株を入手し、ファビピラビルや、ファビピラビル誘導体による抗ウイウルス効果、ならびに薬剤耐性ウイルスが分離可能か否かについて検討を行っている。

今後の研究の推進方策

CDK阻害剤による抗ウイルス作用は、ヘルペスウイルスのようなDNAウイルスのみならず、インフルエンザウイルス等のRNAウイルスにも効果があることを明らかにしてきた。現在承認されている抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスのDNA複製タンパク質ならびにゲノム複製を標的にしており、ウイルス遺伝子の変異により薬剤耐性化したヘルペスウイルスの出現は避けられない問題である。EBV の後期遺伝子の発現を抑制するCDK阻害剤は、HCMV の増殖も抑制することから、ヘルペスウイルスに対する全く新しい阻害物質となり得ると予想される。ただし、CDK阻害剤の濃度による宿主細胞に対する影響を十分に検討していく必要がある。
そして現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症が世界的に大問題となっているため、ヒトコロナウイルス229E株を用いて、ファビピラビルやファビピラビル誘導体の有効性、遺伝子変異による耐性化ウイルスの出現についての基礎的実験を検討していく。これまでの解析で、ファビピラビル存在下では耐性化といえるような遺伝子変異を検出することはできていないが、コロナウイルスに有効とされる他の薬剤でも同様の研究を行い、ウイルス遺伝子解析により薬剤耐性化変異について解析を行っている。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症の流行により、年度末に予定していた日本薬学会学術集会(京都)の開催が突如中止になったため、参加のための出張旅費関連経費に差異が生じた。
また、当初の計画ではRNAウイルスとして、黄熱ウイルス、カリシウイルス、デングウイルスなど幅広く抗ウイルス活性を解析していく予定であったが、新型コロナウイルスの流行に伴い、標的ウイルスをヒトコロナウイルスだけに絞って解析を進めることにしたため、培養関係の消耗品の支出も減少した。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Growth Activation of Influenza Virus by Trypsin and Effect of T-705 (Favipiravir) on Trypsin-Optimized Growth Condition2019

    • 著者名/発表者名
      T Daikoku, T Okuda, M Kawai, N Morita, T Tanaka, M Takemoto, Y Fukuda, K Takahashi, N Nomura, K Shiraki
    • 雑誌名

      Acta Virology

      巻: 63 ページ: 309-315

    • DOI

      10.4149/av_2019_311

    • 査読あり
  • [学会発表] ポリオウイルスに対するファビピラビルとその誘導体の効果2019

    • 著者名/発表者名
      梅田実希、藤本和宏、亀井 敬、鎌田一希、前崎将人、野田佳加、武本眞清、定成秀貴、村山次哉、大黒 徹
    • 学会等名
      日本薬学会第139年会
  • [学会発表] EBウイルスの後期遺伝子の転写を抑制するCDK阻害剤はHCMVの転写も抑制する2019

    • 著者名/発表者名
      梅田実希、佐藤好隆、木村 宏、大黒 徹
    • 学会等名
      第59回日本ウイルス学会学術集会
  • [学会発表] 抗ウイルス薬の研究と薬剤耐性ウイルスの遺伝子解析2019

    • 著者名/発表者名
      大黒 徹
    • 学会等名
      日本薬学会北陸支部131回例会
    • 招待講演

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公開日: 2021-01-27  

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