研究課題
中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)の治療薬や予防法の開発を最終目的とし、重症化の原因や候補薬の探索を行っている。令和2年度はニワトリで作製したMERS-CoVに対する抗IgY抗体の治療効果について、MERS-CoV感染マウスモデルを用いて検討を行なった。抗IgY抗体はMERS-CoVの各構造タンパク質に対して作製したが、スパイク(S)タンパク質全長、Sタンパク質のサブユニットであるS1タンパク質でのみ、MERS-CoVに対する中和効果が見られた。そこで次に中和効果の見られた抗Sおよび抗S1抗体について、hDPP4導入トランスジェニック(hDPP4-Tg)マウスを用いてin vivoで効果を検討した。hDPP4-Tgマウスに10^6 TCID50のMERS-CoVを経鼻接種後、6時間および1日にこれらの抗体をそれぞれ腹腔内投与した。そしてウイルス接種後のマウスの体重変化の観察、肺のウイルス価の測定、肺の病理像を確認した。抗体投与群と陰性コントロール抗体投与群では、ウイルス接種後の体重変化に有意差は見られなかったが、抗体投与群で接種3から6日目までの体重減少が陰性コントロール抗体投与群と比較して軽度だった。抗体投与群の肺のウイルス価は陰性コントロールと比べて有意な差は見られなかったが、肺の病理組織を用いた免疫組織化学法でMERS-CoV N抗原の陽性細胞数をカウントしたところ、抗S1抗体投与群では陽性細胞数が陰性コントロール投与群と比較して有意に少なかった。また抗S抗体投与群では統計学的に有意差は見られなかったが、陰性コントロール投与群と比べて陽性細胞数が少ない傾向だった。これらの事から作製したMERS-CoV 抗S 及びS1 IgY抗体はMERS-CoVの増殖抑制に部分的な効果があることが分かった。
4: 遅れている
SARS-CoV-2の流行により、その対応でSARS-CoV-2以外の研究がほとんど実行できなかったため。
現在、SARS-CoV-2が世界的に流行している。そしてすでに存在している季節性コロナウイルスあるいはMERS-CoVの既感染がSARS-CoV-2の重症化に影響する可能性が懸念されている。そこで、令和3年度ではヒトコロナウイルスレセプター導入トランスジェニックマウスを利用し、中東呼吸器症候群(MERS)や季節性コロナの既感染の影響を検証するための感染モデルを開発し、ウイルス動態と免疫応答やSARS-CoV-2の感染による影響を検討する。
年度末納品等にかかる支払いが、令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Microbiology and Immunology
巻: 64(1) ページ: 33-51
10.1111/1348-0421.12754.
Vaccines
巻: 8(4) ページ: 634
10.3390/vaccines8040634