研究課題
今なお全世界で流行している狂犬病は致死率ほぼ100%のウイルス性脳炎であるが、ワクチン接種と免疫グロブリン(RIG)投与による適切な曝露後治療(PEP)により発症阻止が可能である。しかし、高いコストや供給量不足、短い保存期間といった問題のためにRIGが使用できないことや、非常に危険度の高い重度の曝露、すなわち頭頸部、顔面などへの深い曝露により「PEPが失敗」するケースがある。グローバル化が進んだ現在、狂犬病は日本おいても渡航医療などの観点から考えるべき問題である。我々はこれまでに抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名アビガン)の投与が、曝露直後のウイルスの増殖と引き続く神経内への侵入を末梢のレベルで防ぐことを明らかにした(Antiviral Res. 2019 J Infect Dis. 2016)。本研究では、重度の曝露に対して効果的でアクセスしやすいPEPレジメン提案に向け、RIGの代替としての抗ウイルス薬の末梢からの投与の有効性検討とBBB透過性亢進処置の有効性の検証について、マウスモデルを用いて行うことを計画する。今年度は、咬傷部位でのウイルスの増殖抑制効果をみるために、マウス背部皮膚に生検用トレパンで円形の創部を作成し、そこに発光型組換え狂犬病ウイルスを浸透接種し、その後白色ワセリンを基材とした10%ファビピラビル塗布剤を作成し、創部に塗布後ウイルスの増殖をin vivoイメージングで観察し、感染局所でウイルスの増殖が抑制されるかのモデルを作成することとした。一方、ファビピラビルのBBB透過性を亢進させる修飾剤の効果についても検討を行った。ファビピラビルをラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンにより修飾し、レポーターアッセイによりマウス神経細胞において狂犬病ウイルスに対する増殖抑制効果の増強を確認し、さらにin vivoでの効果も確認した。
2: おおむね順調に進展している
まだin vitroの結果であるが、抗ウイルス薬の効果を亢進させる方法を見出せたことから、本研究の目的達成に向けて一定の成果が得られたと考えられたため。
令和3年度はファビピラビル含有軟膏の局所でのウイルス増殖抑制効果を、マウス創部感染モデルを用いてin vivoイメージング法を駆使して明らかにし、塗布療法の条件検討(単回か複数回か、軟膏濃度、創部の程度など)を行い、次年度以降は狂犬病流行地での曝露後治療への臨床応用を見据えた研究の基礎データづくりとする。一方、ラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンにより修飾したファビピラビルの狂犬病ウイルスに対する効果については、感染マウスを用いてin vivoイメージングにより定量的評価を行う。いずれも抗ウイルス効果の改善が認められるか、in vivoイメージングにより定量的評価を行う。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
PLoS Negl Trop Dis.
巻: 14 ページ: e0008844
10.1371/journal.pntd.000884
Viruses
巻: 12 ページ: 914
10.3390/v12090914.
http://www.med.oita-u.ac.jp/biseibut/