研究課題/領域番号 |
19K08960
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邊 真弥 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60614956)
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研究分担者 |
相羽 由詞 自治医科大学, 医学部, 助教 (60783694)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 / MRSA / 薬剤耐性菌 / βラクタム薬 / オキサシリン感性黄色ブドウ球菌 |
研究実績の概要 |
抗菌薬の効かない耐性菌の出現と蔓延により、細菌感染症の治療が難航してきている。耐性菌の中で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は最も分離頻度の高い耐性菌である。MRSAは、βラクタム薬耐性に寄与するPBP2a(PBP2’)をコードするmecAを保有する。しかし、mecA陽性にも関わらず、MRSAスクリーニングに用いるβラクタム薬であるオキサシリンに感性を示す「オキサシリン感性mecA陽性黄色ブドウ球菌(OS-MRSA)」が、臨床分離メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)の中からしばしば検出される。OS-MRSAは、MSSAと誤判定されることでβラクタム薬治療が開始され、そのβラクタム薬暴露により耐性化する可能性があることが臨床上の問題である。本研究課題では、なぜOS-MRSAがmecA遺伝子を持っているにも関わらずβラクタム薬に感性を示すのか、またOS-MRSAがβラクタム薬暴露により耐性化するメカニズムを明らかにすることを目的としている。申請者らは、世界各地よりOS-MRSA株43株を収集し、そのゲノム解析を行った。ゲノム解析の結果、43株のOS-MRSAは、11のMLST型と4のSCCmec型を持つことが明らかになり、OS-MRSAの遺伝学的背景は多様であった。さらに、26株の代表的なOS-MRSA株から、オキサシリン暴露により、100株の耐性化株を作出し、その変異部位を同定した。耐性化株は、RNAポリメラーゼ遺伝子(rpoBC)やプリン合成系(guaA、prs、hprT)、タンパク品質保持系(clpXP、ftsH)などに変異を持っていた。今後、OS-MRSAのβラクタム薬耐性耐性化機序について解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、現在までに世界各地よりOS-MRSA株43株を収集している。さらに、対象となる臨床分離MRSA株3,000株以上を保有し、その一部を本研究課題に用いている。収集したOS-MRSA株のβラクタム薬を初めとする薬剤感受性を測定し、本研究課題で用いるOS-MRSA株全てが、オキサシリンに対して感性を示すことを確認している。OS-MRSA株のゲノム解析を行ったところ、全ての株でmecA陽性であり、11のMLST型と4のSCCmec型を持つことが明らかになった。つまり、OS-MRSAはひとつのクローンから派生したのではなく、多様な遺伝学的背景を持つことがわかった。さらに、26株の代表的なOS-MRSA株に対して、オキサシリンを暴露することにより、オキサシリン耐性化株を合計100株選択した。これらの耐性化株のゲノム解析を行ったところ、70株がゲノム上に1か所変異を有し、4株が1つの遺伝子に2か所変異をもち、残りの26株が遺伝子間領域を含む2か所以上の部位に変異をもつことが明らかとなった。さらに、100株の耐性化株の中で96株が1つ以上のnonsynonymous変異かframeshift変異をもつことから、これらの変異によりβラクタム薬耐性化していることが推測された。しかし、それらの変異はmecA自体やその制御遺伝子に存在せず、RNAポリメラーゼ遺伝子(rpoBC)やプリン合成系(guaA、prs、hprT)、タンパク品質保持系(clpXP、ftsH)などに変異を持っていた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、臨床分離OS-MRSA株からβラクタム薬により選択した耐性化株をゲノム解析し、OS-MRSAの耐性化に関わる変異を同定した。本年度は、これらの変異による耐性化メカニズムを明らかにするために、RNA-seqを用いた網羅的発現解析を行う。代表的な耐性化株とその親株のRNAをオキサシリン添加・非添加の条件で抽出する。抽出したRNAからライブラリーを作成し、次世代シークエンサーによりRNA-seq解析を行う。発現解析により、耐性化に寄与する遺伝子または代謝経路を抽出する。昨年度の耐性化株の変異解析では、ヌクレオチド合成に関わる遺伝子に変異が蓄積していた。そのため、ヌクレオチド合成に関わる代謝産物(ATP、GTP、ppGpp等)を定量する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画の進捗に変更はない。次年度の物品費またはその他の経費に使用することで次年度の研究を促進するため。
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