本研究の目的は、ステルス型耐性菌であるOS-MRSAのβラクタム薬感性化機構を明らかにし、MRSAのβラクタム薬感性・耐性化メカニズムを統合的に理解することである。OS-MRSAは、βラクタムの耐性遺伝子であるmecAを持つにも関わらず、オキサシリンを含むβラクタム薬に感性を示す。本研究課題では、世界各地の臨床分離OS-MRSA株からオキサシリン耐性化株を選択し詳細に解析することで、オキサシリン暴露によるβラクタム薬耐性化機構を見出すことを目的としている。申請者らは、世界各地よりOS-MRSA株43株を収集し、そのゲノム解析を行った。ゲノム解析の結果、OS-MRSAの遺伝学的背景は多様であった。さらに、26株の代表的なOS-MRSA株から、オキサシリン暴露により、100株の耐性化株を作出し、その変異部位を同定した。その中で、最も多い変異遺伝子はRNA合成酵素遺伝子rpoBCであり、次に多いのはヌクレオチド合成酵素遺伝子(guaA、prs、hptT)であった。代表的な耐性変異株の全遺伝子発現解析より、耐性化株ではこれらの遺伝子を含むヌクレオチド合成系や飢餓応答に関わる遺伝子が発現減少していた。rpoBCに変異を持つ耐性化株はRNAの生産量が減少しており、RNAポリメラーゼ(RNAP)の活性低下が示唆された。また、メタボローム解析より、RNAの前駆体であるUTP等のリボヌクレオチドの蓄積がrpoBC変異株でみられRNAPの機能低下が確認された。さらに、過剰なUTPがGlcNAcと結合したUDP-GlcNAc等が細胞内に蓄積していた。UDP-GlcNAcは細胞壁の前駆体であるため、この蓄積がβラクタム耐性に寄与することが推測された。本研究により、OS-MRSAのβラクタム暴露による耐性化機構の一端が明らかになった。
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