研究課題/領域番号 |
19K08966
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
打矢 恵一 名城大学, 薬学部, 教授 (70168714)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Mycobacterium avium / 薬剤感受性 / pMAH135プラスミド |
研究実績の概要 |
我々は以前の研究において、重症化した肺Mycobacterium avium症患者由来株において、薬剤耐性や病原性に関わる遺伝子をコードした194,711 bpの新規の伝達性プラスミド(pMAH135)を同定した。そのプラスミド上には薬剤耐性に関与する遺伝子として、MATE型の薬剤排出ポンプ、さらに薬剤排出ポンプとして同定されているEmrBと相同性を示す遺伝子が存在していた。そこで、当該年度の研究実施計画に基づいて、pMAH135の薬剤抵抗性や耐性への関与について検討を行った結果、以下の研究成果が得られた。 1.pMAH135の保有状況:使用菌株は、全国の国立病院機構の各施設において肺M. avium症と診断された後、薬物治療を行う前に分離されたM. avium 46株を使用した。培養した菌体をアガロースゲルに包埋し、パルスフィールドゲル電気泳動を行った後、さらにpMAH135にコードされている薬剤耐性遺伝子に対する特異的プローブを作製し、サザンブロッティングにより存在の確認を行った。その結果、M. avium 46株中11株がpMAH135を保有していた。 2.薬剤抵抗性や耐性への関与の検討:使用菌株について、Clarithromycin(CAM)、Rifampicin(RFP)、Ethambutol(EB)、Kanamycin(KM)、Streptomycin(SM)、Amikacin(AMK)の6薬剤のMIC値をブロスミックNTMにより測定した。そして、pMAH135の保有株と非保有株について、両者の MIC値を統計解析で比較することにより、pMAH135の薬剤抵抗性や耐性への関与を調べた結果、pMAH135保有株においてSM、KM、AMK、RFPの4薬剤のMIC値が有意に高値を示した。以上の結果から、pMAH135は薬剤感受性に関与している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の本研究課題の目的は、難渋するM. avium症の薬物治療の観点から、pMAH135プラスミドの薬剤抵抗性への関与について検討を行うことであり、pMAH135の存在と薬剤抵抗性との関連性が明らかになれば、抗菌薬による治療をより正確に行うことができる。当該年度の研究実施計画に基づいて行った研究の進捗状況から、下記の理由により現在までの達成度については、やや遅れている。 2021年度の研究実施計画に基づいて、上記で述べた薬物治療を行う前に分離されたM. avium 46株を使用し、パルスフィールドゲル電気泳動を行うことによりpMAH135の存在を調べた結果、M. avium 46株中11株がpMAH135を保有していた。さらに、pMAH135の保有株と非保有株について、両者の MIC値を統計解析で比較することにより、pMAH135の薬剤抵抗性への関与を調べた結果、pMAH135保有株においてSM、KM、AMK、RFPの4薬剤のMIC値が有意に高値を示した。以上の結果から、pMAH135は薬剤抵抗性に関与していることが示唆され、pMAH135の存在を調べることにより薬剤感受性の予測の可能性が示された。 しかし、2021年度の研究実施計画であったpMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子の解析について、プラスミドベクターを用いてpMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子のクローニングを行い、それを大腸菌等に形質転換することにより各種薬剤に対する感受性を調べ、具体的な対象薬剤の同定を行う予定であったが、実施することが出来なかったため今後の課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策については、当該年度の研究実施計画に基づいて、抗菌薬使用後の耐性株と感受性株の比較、検討を行う。具体的には以下のように、薬物治療後に耐性化した菌株の割合を調べるとともに、耐性株と感受性株のゲノムを比較することにより、耐性化に関わる遺伝学的な特徴や耐性化しやすい菌株の特徴を調べる予定である。 1.使用菌株は、12ヶ月の一定期間、標準治療を行った後に分離された肺MAC症患者由来M. avium 約40株を使用する。 2.抗菌薬使用後の耐性化の割合:抗酸菌用のMIC(最少発育阻止濃度)測定キット(ブロスミックNTM)を用いて、 肺M. avium症の治療に用いられているCAM、RFP、EB、SM、KMに対するMIC値の測定を行う。その後、判定基準に従って耐性株と感受性株に分類し、耐性度を調べる。 3.薬剤耐性に関わる遺伝子の変異解析:使用菌株のゲノム解析を行った後、これまで報告のある薬剤耐性に関わる遺伝子の変異の有無を調べる。例えば、CAMについては23S rRNAのドメインV領域における特定塩基の変異を調べる。 4.耐性化に関わるM. aviumの特徴:抗菌薬使用後の耐性株と感受性株の比較ゲノム解析を行うことにより、上記以外の耐性化に関わるM. aviumの遺伝学的な特徴や耐性化しやすいM. aviumの特徴を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の2021年度の研究実施計画であったpMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子の解析について、プラスミドベクターを用いてpMAH135上に存在する薬剤耐性遺伝子のクローニングを行い、それを大腸菌等に形質転換することにより各種薬剤に対する感受性を調べ、具体的な対象薬剤の同定を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の影響を受け、実施することが出来なかったため次年度使用額が生じた。 2022年度に使用する予算(次年度使用額を含む)については、当該年度の研究実施計画を遂行するための費用に加える。具体的には、標準治療を行った後に分離された肺MAC症患者由来M. avium 約40株について、次世代シーケンサーによるゲノム解析を行い、得られた遺伝情報の比較、検討を行うための費用として使用する予定である。
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