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2022 年度 実施状況報告書

肺MAC症の増加要因と抗菌薬に対する治療抵抗性の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K08966
研究機関名城大学

研究代表者

打矢 恵一  名城大学, 薬学部, 教授 (70168714)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワード肺Mycobacterium avium症 / クラリスロマイシン / 薬剤耐性
研究実績の概要

2022年度の本研究課題の研究成果について、当該年度の研究実施計画に基づいて、肺Mycobacterium avium症患者に対してClarithromycin(CAM)、Rifampicin(RFP)、Ethambutol(EB)による標準治療を行った後に分離された患者由来M. avium 株、また対象として肺M. avium症と診断された後、薬物治療を受けていない患者由来株を使用して薬剤感受性の比較、検討を行った。その結果、以下の研究成果が得られた。
1.抗菌薬使用後の耐性化の割合:使用菌株は、国立病院機構東名古屋病院において標準治療を行った後に分離されたM. avium 40株、また対象として薬物治療を受けていない患者由来M. avium 40株を使用した。各薬剤に対するMIC値の測定を行った結果、CAMに対してMIC>32の耐性株は、治療群では7株(17.5%)、未治療群では2株(5%)見られ、治療群の方が耐性株の存在率が有意に高かった。RFPに対してMIC>8の耐性株は、治療群では4株(10%)、未治療群では3株(7.5%)見られ両者に有意差は無かった。EBに対しては、ほとんどが耐性株であったため、MIC>32を高度耐性株として判定した結果、治療群では10株(25%)、未治療群では4株(10%)見られ、治療群の方が高度耐性株の存在率が有意に高かった。以上の結果から、とくにキードラックであるCAMに対して、治療を行うことで17.5%が耐性になることが判った。
2.CAM耐性に関わる遺伝子の変異解析:CAMについて、耐性と判定された治療群の7株と未治療群の2株を用いて、23S rRNAのドメインV領域における特定塩基の変異を調べた。その結果、1株を除いてすべてにドメインV領域の2058と2059番目のいずれかのアデニンに点変異が起きていた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2022年度の本研究課題の目的は、治療に難渋する肺M. avium症の薬物治療の観点から、抗菌薬使用後の耐性株と感受性株の比較、検討を行うことにより、薬物治療後に耐性化した菌株の割合を調べるとともに、耐性株と感受性株のゲノムを比較することにより、耐性化に関わる遺伝学的な特徴や耐性化しやすい菌株の特徴を調べることであった。当該年度の研究実施計画に基づいて行った研究の進捗状況から、下記の理由により現在までの達成度については、やや遅れている。
2022年度の研究実施計画に基づいて、肺M. avium症患者に対してCAM、RFP、EBの3剤による標準治療を行った後に分離された患者由来M. avium 株、対象として薬物治療を受けていない患者由来株と比較を行うことで各薬剤に対する耐性化について調べた。その結果、CAMとEBについては治療を行うことで耐性化が進み、とくにキードラックであるCAMに対して17.5%が耐性になることが判った。さらに、CAMに対する耐性は、1株を除いてすべてに23S rRNAのドメインV領域の2058と2059番目のいずれかのアデニンに点変異が起きていた。
しかし、2022年度の研究実施計画であった抗菌薬使用後の耐性株と感受性株のゲノムを比較することにより、耐性化に関わる遺伝学的な特徴や耐性化しやすい菌株の特徴を調べる予定であったが、実施することが出来なかったため今後の課題となった。

今後の研究の推進方策

本研究課題の今後の推進方策については、研究実施計画に基づいて、抗菌薬使用後の耐性株と感受性株のゲノムを比較することにより、耐性化に関わる遺伝学的な特徴や耐性化しやすい菌株の特徴を調べる予定である。具体的には、肺M. avium症患者由来CAM、RFP、EB耐性のM. avium 株および各薬剤感受性のM. avium 株について、以下のように比較ゲノム解析を実施する。
1.薬剤抵抗性に関連する遺伝子の検索:薬剤抵抗性や耐性に関連したARG-ANNOT検索ツールを利用して、M. aviumのゲノム上に存在する薬剤抵抗性に関連する既知遺伝子の検索を行う。さらに、得られた遺伝子の変異箇所をSNPs(single nucleotide polymorphisms)解析により調べ両者を比較する。
2.SNPsに基づいた系統樹解析による比較:両者のゲノム上に存在する共通遺伝子の SNPs解析を行う。その後、系統樹等を作成し両グループ由来株の遺伝学的な違いを調べる。
3.特異的遺伝子の検出と機能分類:Nucmerを使用して、肺M. avium症患者由来株が保有する特異的遺伝子の検索を行う。その後、NCBI検索サイトを利用して、特定した特異的遺伝子の塩基配列からコードしているタンパク質を推定する。さらに、推定されたタンパク質の機能から薬剤抵抗性に関わる遺伝子を検索する。また、特異的遺伝子の機能分類を行うことにより遺伝学的な特徴を調べ、薬剤抵抗性との関連性を検討する。
以上のような比較ゲノム解析を行うことにより、耐性化に関わるM. aviumの遺伝学的な特徴や耐性化しやすいM. aviumの特徴を調べる。

次年度使用額が生じた理由

本研究課題の2022年度の研究実施計画の一つは、抗菌薬使用後の耐性株と感受性株のゲノムを比較することにより、耐性化に関わる遺伝学的な特徴や耐性化しやすい菌株の特徴を調べることであった。しかし、前年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の影響により臨床由来M. avium株の収集が遅れたことから、年度内に解析を実施することが出来なかったため次年度使用額が生じた。
2023年度に使用する予算については、標準治療を行った後に分離された肺M. avium症患者由来CAM、RFP、EB耐性のM. avium 約20株および各薬剤感受性のM. avium 約20株について、次世代シーケンサーによるゲノム解析を行い、得られた遺伝情報の比較、検討を行うための費用として使用する予定である。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件)

  • [雑誌論文] A rapid screening assay for clarithromycin-resistant Mycobacterium avium complex using melting curve analysis with nonfluorescent labeled probes2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Aoki, Hideto Jinno, Kenji Ogawa, Taku Nakagawa, Takayuki Inagaki, Takeaki Wajima, Yoshinori Okamoto, Kei-ichi Uchiya
    • 雑誌名

      Microbiology Spectrum

      巻: 11 ページ: 1-8

    • DOI

      10.1128/spectrum.04326-22.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Salmonella fimbrial protein StcD induces cyclooxygenase-2 expression via Toll-like receptor 42022

    • 著者名/発表者名
      Kei-ichi Uchiya, Saki Isono, Misa Yoshimura, Takeaki Wajima, Toshiaki Nikai
    • 雑誌名

      Journal of Microbiology, Immunology and Infection

      巻: 55 ページ: 581-589

    • DOI

      10.1016/j.jmii.2021.11.001.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Alternative quinolone-resistance pathway caused by simultaneous horizontal gene transfer in Haemophilus influenzae2022

    • 著者名/発表者名
      Emi Tanaka, Takeaki Wajima, Hidemasa Nakaminami, Kei-ichi Uchiya
    • 雑誌名

      Journal of Antimicrobial Chemotherapy

      巻: 77 ページ: 3270-3274

    • DOI

      10.1093/jac/dkac312.

    • 査読あり
  • [学会発表] サルモネラStcDタンパクのIL-1β発現におけるTLR4の関与2023

    • 著者名/発表者名
      金森彩音、輪島丈明、神尾依里、打矢惠一
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 3次元ヒト肺組織モデルを用いた肺炎球菌病態評価モデルの構築2023

    • 著者名/発表者名
      田中愛海、輪島丈明、中南秀将、打矢惠一
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] インフルエンザ菌における形質転換能と潜在的薬剤耐性化能の評価2023

    • 著者名/発表者名
      太田瑠璃、輪島丈明、田中愛海、打矢惠一
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 外来遺伝子獲得型マクロライド耐性インフルエンザ菌のゲノム構造2023

    • 著者名/発表者名
      平野園惠、輪島丈明、田中愛海、打矢惠一
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] Plumbago zeylanicaから単離されたnaphthoquinolone類の抗菌作用2023

    • 著者名/発表者名
      中川莉緒、輪島丈明、田中愛海、井藤千裕、打矢惠一
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] インフルエンザ菌のキノロン耐性は uptake signal認識を介した相同組み換えで伝播する2022

    • 著者名/発表者名
      田中愛海、輪島丈明、打矢惠一、中南秀将
    • 学会等名
      第96回日本感染症学会総会・学術講演会
  • [学会発表] コラーゲンで亢進されるA群溶血性レンサ球菌のバイオフィルムとバイオフィルム除去濃度に対する影響2022

    • 著者名/発表者名
      輪島丈明、田中愛海、打矢惠一
    • 学会等名
      第96回日本感染症学会総会・学術講演会
  • [学会発表] インフルエンザ菌におけるキノロン耐性出現メカニズムの解析2022

    • 著者名/発表者名
      輪島丈明、田中愛海、中南秀将、打矢惠一
    • 学会等名
      第68回日本薬学会東海支部大会
  • [学会発表] キノロン高度耐性Haemophilus haemolyticusのキノロン耐性化におけるParEの関与2022

    • 著者名/発表者名
      田中愛海、輪島丈明、中南秀将、打矢惠一
    • 学会等名
      第59回日本細菌学会中部支部総会
  • [学会発表] キノロン高度耐性Haemophilus haemolyticusのキノロン耐性はH. influenzaeに水平伝播する2022

    • 著者名/発表者名
      田中愛海、輪島丈明、中南秀将、打矢惠一
    • 学会等名
      第65回日本感染症学会中日本地方会学術集会

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公開日: 2023-12-25  

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