本研究課題は、独自の Signal Sequence Trap法によってスクリーニングされたアスペルギルスの分泌タンパク質を標的抗原とし、肺アスペルギルス症に係る病原性因子として働きうる分子を機能面から証明することを目指すものである。全110種の候補遺伝子に関してアスペルギルスフミガータスの感染肺を用いたqRT-PCR解析を行い、生体内での発現量の解析結果と機能予測、これまでに報告のない分子といったスクリーニングから抗原コードY69を標的抗原として研究を進めた。これまでにY69遺伝子を欠損させたアスペルギルスフミガータス株(ΔY69株)はマウスの感染実験において病原性が低下し、病理切片を用いた解析結果でも生体内での菌糸成長が著しく減衰することを見出している。最終年度は以前から取り組んでいた抗Y69モノクローナル抗体の作製作業を完了し、その抗体を使って感染肺の肺胞洗浄液中にY69が認められることを初めて確認した。また組換えY69を精製して機能面について解析したところ、Y69分子は肺胞上皮細胞に直接作用し、細胞の接着を妨げるような形で細胞死を誘導していることが示唆された。このような感染時の基盤となる病原性評価に加えて、これまで並行して進めてきたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症モデルでの評価においてΔY69 株の感染群では野生型群と比較してアレルギー応答を促進するT細胞の活性化状態が有意に低下しており、サイトカイン等の液性因子の産生も有意に減衰していた。このようにY69はアスペルギルスが宿主環境に適応するために必要な分子であるとともにY69分子自体が宿主の細胞に直接的に作用することで細胞を死滅させ、宿主内でdanger signalが発せられることによってアレルギー応答を増幅している可能性が示唆される。
|