研究課題
本研究の目的は、ヒトで認められる結核病変が観察でき、潜伏感染も再現できる唯一の動物であるカニクイザルを用いて、未だ明確ではないBCGの結核防御効果および結核病態を正確に把握することである。研究の実施計画としては、①BCGは肺結核・全身性の結核に有効なのか評価する。②BCGの防御効果が有ったサル(潜伏感染/殺菌・根絶)と無かったサル(活動性結核)の結核抗原特異的免疫反応および肺局所への浸潤細胞を比較する。③BCGワクチンと肺局所への肉芽腫形成の関連性を病理学的に解析するという3つの項目を中心に実験を遂行することとした。2020年度は予定通り①を遂行し、BCGの肺結核および全身播種性の結核に対する有効性を評価し、ヒトで報告される病変を再現できるサル結核急性感染モデルを構築した。当該年度はサルの頭数を増やし構築したサルモデルを用いて、予定通り②と③のBCGワクチンの効果を規定する要因の探索を行った。結核病態を規定する肺内生菌数およびBCGの有する結核防御効果と相関する要因を探索したが、体重や血液・生化学検査、剖検時の白色結節などのスコア、臓器体重比や病理解析スコアと相関する項目は見出せなかった。既存の診断マーカーでは臓器内生菌数を反映しきれていないと考えられたので、今後は新たなマーカー探索を計画するとともに、構築したサル結核モデルを用いて治療法・ワクチン開発も計画する。またワクチン非接種群においても、結核感染非発症の個体(潜伏感染)が認められたので、これらの個体に関しても再活性化のメカニズム探索に活用していきたい。本研究成果に関しては当該年度に報告した(Tsujimura et al. J. Immunol. 2020)。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、未だ明確ではないBCGの結核防御効果について、ヒトと同様の結核病変を示し、潜伏感染/再活性化の検討が行える唯一の動物モデルであるカニクイザルを用いて詳細に解析し、結核病態を正確に把握することである。2020年度は、結核菌(Erdman株)を50 CFU経気道感染させることで、ヒトで報告されている結核病態を誘導できる結核急性感染モデルを構築した。またこのモデルは、BCGの肺結核および播種性結核に対する効果もヒトでの報告を再現できるモデルであった。当該年度は、BCGの防御効果が有ったサルと無かったサルの結核抗原特異的免疫反応および肺局所への浸潤細胞の違いを比較・検討した。結果としては、末梢血単核球細胞中のCD4 T細胞において、PPD特異的な免疫応答がワクチン効果の無かった個体で非常に高い結果となった。これは予想とは真逆の結果であった。肺局所における免疫応答や浸潤細胞においては、BCGのワクチン効果の有無と相関しなかった。BCGワクチンと肉芽腫の形成や殺菌能との関連性についても肺局所の反応と同様で、BCGワクチンの防御効果と相関する結果は認められなかった。現在までの進捗状況としては予定通り遂行しており、本研究の成果に関しては当該年度に論文発表した(Tsujimura et al. J. Immunol. 2020)。次年度は血漿を用いた新たなマーカー探索や、肺に感染した結核菌の解析など回収したサンプルを用いての詳細な解析を計画する。
当該年度のサル結核感染実験からも2020年度の実験結果を再現できたことから、霊長類医科学研究センターで構築したカニクイザル結核モデルは、ヒトで報告されている結核病態およびBCGの予防効果を再現できるモデルであることが分かった。計画を遂行する上で実験条件の変更も必要ないと考えられる。今回BCG投与群10頭から1頭だけワクチン効果を認めないサルを得たので、BCGのワクチン効果を規定する要因もしくは肺の臓器内生菌数と相関する要因を探索したが、血液・生化学検査や剖検時スコア、病理解析や免疫学的な解析のいずれからも見出すことができなかった。今後は、保存した血漿や臓器バイオプシーサンプル、末梢血単核球細胞や肺胞洗浄液細胞を用いてBCGのワクチン効果や結核病態の重症度を反映するような診断マーカーを探索する。
当該年度においても世の中の情勢から学会発表はなく、霊長類医科学研究センターに出向いての実験や打ち合わせも最小限に抑えた。緊急事態宣言下では実験を止める必要もあり、テレワークも増えて新規実験がなかなか進められなかった。また購入できる消耗品類も限られたため、所有していた試薬で極力まかない、解析もできる範囲で委託はせずに行ったため次年度に使用額が生じた。今後計画しているマーカー探索や詳細な病理解析に関しては委託しなければ進められず高額になることが予想されるため、次年度の使用額の中で計画的に進めていく。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 22 ページ: 794-809
10.3390/ijms22020794.
The Journal of Immunology
巻: 205 ページ: 3023-3036
10.4049/jimmunol.2000386.