研究課題/領域番号 |
19K08974
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉田 陽子 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特任助教 (00586232)
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研究分担者 |
清水 逸平 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特任准教授 (60444056)
南野 徹 新潟大学, 医歯学系, 教授 (90328063)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベージュ細胞 / 解糖系 / 白色内臓脂肪 |
研究実績の概要 |
肥満や糖尿病により健康寿命の短縮や全死亡率が上昇するため、これらの病態を解明することは極めて重要である。これまで申請者らは、肥満や糖尿病、心不全時に白色内臓脂肪が老化することで全身のインスリン抵抗性が生じ、これらの老化関連疾患の病態が負に制御されることを明らかにしてきた。褐色脂肪組織はかつて主に乳幼児に存在する熱産生器官として認識されてきたが、今日では、成人にも存在し全身の代謝を制御する可能性を秘めた臓器であることがわかってきた。加齢や肥満により褐色脂肪の機能が低下する分子機序は不明であったが、我々は最近、肥満時には低酸素を介したシグナルによりミトコンドリア数が減少することで褐色脂肪組織の「白色化」と機能不全が進行し、全身の糖代謝異常が生じることを明らかにした。肥満のみならず加齢に伴い褐色脂肪が機能不全に陥ることはヒトや動物実験で報告されているが、機能不全に陥った褐色脂肪ではミトコンドリア不全が生じ、細胞代謝がミトコンドリア呼吸から解糖系にシフトしていると考えられる。我々のこれまでの検討の結果、脂肪組織特異的解糖系阻害マウスでは褐色脂肪の白色化と機能不全が生じ、全身のエネルギー消費量が低下することがわかった。驚くべきことに、このマウスでは褐色脂肪が機能不全に陥る一方で、白色内臓脂肪組織が著しく褐色化(ベージュ化)し、全身の熱産生能が維持されることがわかった。一方で褐色脂肪特異的解糖系阻害マウスでは、これらの表現型は見られないことから、このベージュ化の現象は内臓脂肪特異的に生じる現象であると考えられた。これまでの予備検討から解糖系抑制による内臓脂肪組織でのベージュ細胞の誘導は細胞自律的に起こっていることが示唆されている。今後はその検証を進めるとともに、ベージュ化誘導の分子メカニズムについて検証を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度(令和元年度)の研究計画として当初予定した通り、脂肪組織特異的Pgam1ノックアウトマウス、褐色脂肪特異的Pgam1ノックアウトマウス、脂肪組織特異的Glut1ノックアウトマウスなどを作出し、その熱産生能やエネルギー消費量の評価を行い、また耐糖能やCTによる内臓脂肪量の変化などの表現型を解析することができた。さらにその機序を検証するため、ノックアウトマウスのサンプルを用いたマイクロアレイ解析や培養細胞での実験の準備を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
白色内臓脂肪でのベージュ化の機序を検証するため、上述の遺伝子改変マウスの主要代謝臓器サンプルを用いて、Western blot、免疫染色、qPCR、電子顕微鏡等による解析を行う。白色脂肪および褐色脂肪組織を中心とする主要代謝臓器を用いて、マイクロアレイ解析やメタボローム解析を行い、脂肪組織での解糖系阻害が内臓脂肪組織のベージュ化を誘導する分子機序を明らかにする。またPgam1を標的とするshRNAを発現するアデノ随伴ウイルスを用いて、白色脂肪細胞株(3T3-L1細胞)のPgam1をノックダウンし表現型を解析する。予備実験において、Pgam1をノックダウンした3T3-L1細胞では有意にベージュ様細胞への分化が誘導され、ベージュ細胞に特徴的な遺伝子プロファイルを呈することを確認している。そこで、解糖系抑制剤である2-deoxy-D-glucose (2-DG)によっても同様の表現型が見られるか検証する。また3T3-L1から誘導されたベージュ細胞をChIP-seqやRNA-seqを用いて解析することで、ベージュ細胞誘導の分子機序を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね当初の計画通り予算を使用できたが、一部の購入品にて当初の予定よりも低価格で購入できたものがあり、次年度使用額が生じた。次年度へ繰り越した研究費は今年度購入予定の試薬や消耗品、実験動物の購入に使用したいと考えている。
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