研究課題
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)は肝硬変と肝細胞癌の主要な原因疾患となり、その予後は線維化が規定するが、線維化進展を阻止する治療法は確立していない。我々は先に、NAFLD患者を対照とした小規模の連続肝生検解析により、HbA1c低下、およびインスリン治療が、各々独立して肝線維化の軽減に寄与することを見出した(Diabetes Care 2009)。今回、NAFLD患者に対して、実臨床での治療過程で経時的に肝生検を実施し、肝病理をreal-world dataとして解析し、糖尿病の有無で肝線維化進展の寄与因子を抽出した。初回肝生検時、単純性脂肪肝(NAFL)26名、非アルコ-ル性脂肪性肝炎(NASH) 92名であった。平均BMI 28.8±5.6 kg/m2、HbA1c 7.6±2.0%、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症の罹患率はそれぞれ73%、45%、73%であった。単変量解析では、肝生検時の糖尿病罹患 (P = 0.031)、 AST (P = <0.001)、γGTP (P = <0.001)が肝線維化と正に、総コレステロール (P = 0.001)と血小板 (P = <0.001)が負に相関した。さらに、一般線形混合モデル反復測定分析では、非糖尿病群ではASTが正に、ALTが負に、糖尿病罹患群においてはHbA1cとγGTPが正に、血小板が負に、それぞれ肝線維化の進展と相関した。
2: おおむね順調に進展している
1998年以降に臨床的にNAFLDと診断され、2回以上の連続肝生検を施行した患者118名(男性67名、女性51名)を最長15年(平均3.8±3.5年)観察した。延べ342回の肝生検サンプルの病理像をMatteoni分類およびBrunt分類に従って、一人の病理医により系統的に再スコア化した。一般線形混合モデルを用いて、NAFLD病理の時間的・組織学的変化と性別、年齢、BMI(body mass index)、糖尿病病態(HbA1c、血液生化学データー、糖尿病治療)等の臨床パラメーターとの関連を解析し、有意水準をP<0.05として、肝線維化進展と関連する因子を抽出することができた。NAFLD患者では、糖尿病罹患は肝線維化と関連する。糖尿病の有無により肝線維化進展の寄与因子は異なり、糖尿病を合併したNAFLD患者ではHbA1cが肝線維化進展と関連する。2型糖尿病患者の肝臓では、肝線維化進展前より、肝線維化に中心的役割を果たすTGF-βファミリー、およびその上流で星細胞を活性化するVEGF、PDGFなどの血管新生因子をコードする遺伝子群が協調的に発現亢進する(Diabetologia 2004)。今回の知見は、2型糖尿病病態の中でも、肥満にもまして高血糖が肝線維化を促進する可能性を示唆する。
1998年以降に臨床的にNAFLDと診断され、2回以上の連続肝生検を施行した患者118名、延べ342回の肝生検サンプルの病理像をMatteoni分類およびBrunt分類に従って、一人の病理医により系統的に再スコア化した。一般線形混合モデルを用いて、NAFLD病理の時間的・組織学的変化と性別、年齢、BMI、糖尿病病態等の臨床パラメーターとの関連を解析し、有意水準をP<0.05として、肝線維化以外の肝脂肪化・炎症と関連する因子を抽出する。人工膵臓を用いた高インスリン血症下正常血糖クランプ試験で求めた臓器特異的インスリン抵抗性、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)とインピーダンス法で求めた臓器特異的細胞内脂肪蓄積、血中ヘパトカインレベル、糖尿病治療を含む臨床データと肝病理像推移との関連性を明らかにする。凍結肝生検組織および末梢血液細胞からRNAを抽出し、遺伝子発現を次世代シーケンサーRNA Seqを用いて網羅的に既知遺伝子の発現解析を行う。また、配列情報から新規の転写産物やスプライシングジャンクションの探索を合わせて行う。さらに、リアルタイムPCR法を用いて糖脂質代謝、炎症・免疫応答、線維化などのNAFLDの病態に関与する遺伝子群や同定した遺伝子群の変化を検討する。
臨床的にNAFLDと診断され、2回以上の連続肝生検を施行した患者118名、延べ342回の肝生検サンプルの病理像をMatteoni分類およびBrunt分類に従って系統的に再スコア化するにあたり、組織免疫染色用抗体行うために計上した予算が一部未使用となった。今後、ヘパトカイン測定、遺伝子解析の関連試薬に使用する。
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