研究課題
NAFLDは糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満症などを合併するだけでなく、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)を経て肝硬変、肝がんに至る。申請者は、糖尿病患者にNAFLD・NASHが高率であること(申請者も参加した厚生労働省非アルコール性脂肪肝炎研究:岡上班)、糖尿病合併NAFLDの肝がん発生リスクは2.16倍に及ぶこと(Gastroenterology 2004)を報告した。このため、NAFLDを伴う糖尿病患者の治療では、糖尿病の治療に加えて肝臓そのものに対する適切な治療法が模索されている。肝臓は糖代謝の中心をなす臓器であるが、糖尿病治療薬によってNAFLDの肝臓病理が変化する場合、その糖代謝に及ぼす影響は不明である。しかしながら、両者の関連を解析するためには、糖尿病治療前後における肝組織と人工膵臓を用いた解析が必要であるため、これまでは多数の症例を用いた系統的な解析が行われてこなかった。これまで、2型糖尿病を有するNAFLD患者(39名)に対して連続肝生検を行い、肝臓の線維化に寄与する因子はHbA1c低下およびインスリン治療であること(Diabetes Care 33:284-286, 2010)を明らかにした。さらに、NAFLD伴う2型糖尿病患者40例を対象にSGLT-2阻害薬とスルホニル尿素(SU)薬が肝臓病理所見に及ぼす影響について、連続肝生検を行うRCT研究を報告した。SGLT-2阻害薬とSU薬は、ともにHbA1cを同等に有意に低下させたが、SGLT2阻害薬群でのみ、肝酵素・体重・肝臓病理スコアが有意に低下した。さらに、48週間のSGLT-2阻害薬介入による肝線維化の改善率は60%であり、既報に比し高い改善率を示した(Diabetes Care 45:2064-75, 2022)。
2: おおむね順調に進展している
1998年以降に臨床的にNAFLDと診断され、2回以上の連続肝生検を施行した患者118名(男性67名、女性51名)を最長15年(平均3.8±3.5年)観察した。延べ342回の肝生検サンプルの病理像をMatteoni分類およびBrunt分類に従って、一人の病理医により系統的に再スコア化した。一般線形混合モデルを用いて、NAFLD病理の時間的・組織学的変化と性別、年齢、BMI(body mass index)、糖尿病病態(HbA1c、血液生化学データ、糖尿病治療)等の臨床パラメーターとの関連を解析し、肝線維化進展と関連する因子を抽出することができた。RCT研究にて、薬剤ごとの肝臓の生検時に得られた肝臓サンプルから肝臓の発現遺伝子解析をすすめ、血糖低下作用が同等であっても肝臓内の代謝が異なることを示した。SGLT2阻害薬は、アポト-シス・ストレス応答・炎症・T細胞応答・線維化に関与する遺伝子が低下し、脂肪酸異化・アミノ酸異化・糖新生・TCAサイクル・酸化的リン酸化に関与する遺伝子が上昇したが、SU薬ではこのような変化がなかった(Diabetes Care 45:2064-75, 2022)。
前向き臨床研究のサンプルを用いて、肝臓におけるtofogliflozinとglimepirideの分子シグネチャーを理解するために、介入前後にRNAseqを用いてグローバルな肝臓の遺伝子発現プロファイル解析およびNAFLD病態改善する応答性常在細胞の可能性についてさらに検討するため、シングルセルRNA-seq遺伝子を用いた遺伝子セットエンリッチメント解析をすすめる。どの細胞成分に特徴的な遺伝子発現が寄与しているかを特徴づけるために、既報のヒト肝臓Single Cell RNAseq解析(Nat Commun. 2018;9:4383)で得られた細胞クラスタ-ごとに特徴的な発現遺伝子リストから、機能オントロジー・エンリッチメント解析を行い発現量の異なる遺伝子の各細胞成分分布を比較する。動物モデルにおいて(Nature 2017)、NAFLD/NASHは中心静脈周囲(Zone 3)の肝細胞障害が特徴的であり、ペルオキシソ-ムが豊富なZone 3領域はNAFLDの主要標的領域と推察されている。そのため、Zone 3領域の肝類洞壁内皮細胞(LSEC)、γδT細胞、炎症性マクロファージ、星状細胞、形質細胞に注目し、薬剤介入前後の肝臓病理進展と関連する多細胞相互作用を明らかにする。
民間助成金に採択され、研究資金に余裕ができたため、次年度使用額が生じた。今後、シングルセルRNA-seq遺伝子を用いた遺伝子セットエンリッチメント解析のための予算に充てる予定である。
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