研究課題/領域番号 |
19K08976
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩間 信太郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (00733536)
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研究分担者 |
有馬 寛 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50422770)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫関連有害事象 / 甲状腺炎 / PD-1 |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん免疫療法では、自己免疫機序が想定される免疫関連有害事象(irAEs)の発生が課題であるが、発症機序は不明で、有用な動物モデルもないのが現状である。最も広く使用されている抗PD-1抗体では、irAEsとして甲状腺機能異常症の頻度が高い。 本課題では、抗PD-1抗体誘発甲状腺炎マウスモデルを開発し、甲状腺irAEs発症に関与する特異的リンパ球を同定することを目的としている。 これまでの検討から、サイログロブリンを予め皮下投与した後に抗PD-1抗体を投与した結果、破壊性甲状腺炎を呈するマウスモデルが確立された。破壊性甲状腺炎を発症したマウスにおいて、CD4陽性のエフェクターメモリーT細胞およびセントラルメモリーT細胞の増加が認められ、CD4陽性T細胞では細胞障害作用を示唆する蛋白(グランザイムB)の発現が認められた。次に、本マウスモデルにおいて、予めCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞またはCD20陽性B細胞を除去して検討した結果、CD4陽性T細胞を除去した際に抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎の発症が完全に抑制された。 以上の結果より、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎において、細胞傷害作用を有するCD4陽性T細胞が発症に必須の役割を果たしていることが示唆された。 免疫チェックポイント阻害薬は細胞傷害作用を有するCD8陽性T細胞の活性化を介して抗腫瘍作用を発揮すると考えられていたが、irAEsの一つである破壊性甲状腺炎では細胞傷害性CD4陽性T細胞が重要な役割を果たしていることが示された。本研究成果はirAEsの新たな治療法および予防法の確立に繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
甲状腺特異的な蛋白であるサイログロブリンをマウスに皮下投与し、2ヶ月半後に抗PD-1抗体を投与することで著明な炎症細胞浸潤を伴う破壊性甲状腺炎を呈するマウスモデルを確立した。本モデルにおいて、CD4陽性T細胞はサイログロブリンに特異的に反応することおよび細胞傷害作用を示す蛋白(グランザイムB)の発現が認められることが明らかとなった。さらに、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎の発症は、予めCD4陽性T細胞を除去することで完全に抑制されたのに対し、CD8陽性T細胞の除去では部分的に抑制された。 以上の結果より、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎の発症には細胞傷害作用を有するCD4陽性T細胞が必須の役割を果たしていることが明らかとなり、抗PD-1抗体による副作用の病態解明に繋がる知見が得られたから。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎マウスモデルにおいて、その発症には細胞傷害性CD4陽性T細胞が必須の役割を果たしていることが明らかとなった。これまで、免疫チェックポイント阻害薬は細胞傷害作用を有するCD8陽性T細胞の活性化を介して抗腫瘍作用を発揮すると考えられていたが、irAEsの一つである破壊性甲状腺炎では細胞傷害性CD4陽性T細胞が重要な役割を果たしていることが示唆されるため、ヒトの検体において、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎を発症した患者の末梢血リンパ球の解析、さらには甲状腺炎以外のirAEsを発症した患者の末梢血リンパ球を解析し、抗PD-1抗体によるirAEsに共通した免疫学的機序の解明へ展開する。
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