研究課題
免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)を用いたがん免疫療法では、自己免疫機序が想定される免疫関連有害事象(irAEs)の発生が課題であるが、その発症機序は不明で、解析に有用な動物モデルもないのが現状であった。本研究において我々は、甲状腺に発現するタンパクであるサイログロブリン(Tg)を予め皮下投与した後に抗PD-1抗体を投与することで、著明な破壊性甲状腺炎を発症する甲状腺irAEsマウスモデルを確立した。本モデルの解析により、甲状腺炎発症時にCD4陽性T細胞の中でもエフェクターメモリーT細胞およびセントラルメモリーT細胞の増加が認められること、CD4陽性T細胞はサイログロブリンに特異的に反応することおよび細胞傷害作用を示す蛋白(グランザイムB)の発現が認められることが示された。さらに、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎の発症は、予めCD4陽性T細胞を除去することで完全に抑制されたのに対し、CD8陽性T細胞の除去では部分的に抑制された。また、抗PD-1抗体により破壊性甲状腺炎を発症したマウスの頚部リンパ節からCD4陽性T細胞を抽出してレシピエントマウスへ移植した結果、レシピエントマウスの甲状腺濾胞構造の破壊が認められた。最後に、抗PD-1抗体による治療を受けた患者において血液中のリンパ球を解析したところ、破壊性甲状腺炎を発症した患者では非発症者と比しCD4陽性の細胞傷害性T細胞の有意な増加が認められた。本研究より、抗PD-1抗体による破壊性甲状腺炎の発症には細胞傷害作用を有するCD4陽性T細胞が必須の役割を果たすことが明らかとなった。この成果は、現在広く使用されている抗PD-1抗体によるirAEsの新たな治療法および予防法の確立に繋がることが期待される。
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