研究課題/領域番号 |
19K08978
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
喜多 俊文 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (10746572)
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研究分担者 |
前田 法一 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (30506308)
西澤 均 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (20379259)
藤島 裕也 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10779789)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アディポネクチン / エクソソーム / 幹細胞 / セラミド / カドヘリン |
研究実績の概要 |
骨格筋再生は、アディポネクチン(APN)によって、T-カドヘリン(T-cad)依存的に促進されること、再生途上の筋細胞では核の中心化とともに、APNのMVB集積が誘導されること、筋細胞のExo産生にもT-cadを要することを報告した(Tanaka Y et al., Sci Rep 2019)。 APNの多様な臓器保護作用の多くは、7回膜貫通タンパクAdipoRを介する代謝亢進作用や、細胞表面に表出されたCalreticulinとの相互作用を介したオプソニン作用によって説明されてきた。生理的多量体APNはAdipoRやCalreticulinには結合せず、T-cad発現細胞に特異的かつ定量的に結合することを報告した(Kita S et al., Elife 2019)。 T-cadの膜近傍切断に関与する候補としてADAM12を同定したが、ADAM12の欠損マウスにおいて、心血管のT-cadタンパク発現量は野生型と同レベルであった。一方ADAM12の欠損は、圧負荷による心不全が強く進行することを報告した(Nakamura Y et al., AJP Heart 2019)。 間葉系幹細胞(MSCs)はT-cadを発現し、APN添加に応じてExo産生が亢進することを見出した。圧負荷心不全(TAC)モデルにおけるMSCs投与による心機能改善作用は、MSCsのExo分泌に依存し、血中のAPNレベル、MSCsのT-cad発現に依存することを報告した(Nakamura Y et al., Mol Therapy, in revision)。PioglitazoneとMSCsの併用に関して「幹細胞治療増強方法」として特許を申請した(特願2019-234288)。 また、APNによるExo産生調節機構(Obata Y et al., JCI insight2018)を中心に、代謝調節機構との関係を総説に報告した(Kita S et al., JCI 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「エクソソーム産生調節を介するアディポネクチン作用の基盤と応用展開」では下記の3点を主要目的とした。①APNのExo産生促進を介する臓器保護機序を解明し、②膜近傍切断制御を中心としたT-cadの制御機構、及び血中遊離T-cadの病態生理学的意義を解明する。また、③APN/T-cadシステムの間葉系幹細胞機能における役割を明らかにする。 ①に関し、骨格筋再生反応がT-cad依存的にAPNによって促進されること、これには筋細胞におけるAPNのT-cad依存的な細胞内多胞体集積とExo産生が関与することを報告した(Tanaka Y et al., Sci Rep 2019)。②に関しては、内皮由来腫瘍細胞においてはADAM12が高発現しており、T-cadの切断を担うことを見出した。がん細胞においてはメチル化等によるT-cadの発現低下が転移や浸潤を促進し、悪性化と深い関係があることが報告されており、腫瘍におけるT-cad制御の一環として報告を準備している。③では、間葉系幹細胞(MSCs)はT-cadを発現し、APN添加に応じてExo産生が亢進することを見出した。圧負荷心不全(TAC)モデルにおけるMSCs投与による心機能改善作用は、MSCsのExo分泌に依存し、血中のAPNレベル、MSCsのT-cad発現に依存することを報告している(Nakamura Y et al., Mol Therapy, in revision)。 さらに、生理的多量体APNはAdipoRやCalreticulinには結合せず、T-cad発現細胞に特異的かつ定量的に結合することを報告し(Kita S et al., Elife 2019)、APNによるExo制御を中心に、代謝調節とExoを概説した(Kita S, et al., JCI 2019)。 以上から、当初の計画以上に進展していると考えるが、引き続き、「血中遊離T-cadの病態生理学的意義」や「遊離T-cadの産生メカニズム」を解明するとともに、T-cadは多様な組織に常在するMSCsにも発現していることを見出しており、これら組織MSCsの生理的意義とExo産生、APNによる制御についてさらに研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
「エクソソーム産生調節を介するアディポネクチン作用の基盤と応用展開」では①APNのExo産生促進を介する臓器保護機序を解明し、②膜近傍切断制御を中心としたT-cadの制御機構、及び血中遊離T-cadの病態生理学的意義を解明する。また、③APN/T-cadシステムの間葉系幹細胞機能における役割を明らかにすることを目的とした。 この中で②では「血中遊離T-cadの病態生理学的意義」や「遊離T-cadの産生メカニズム」が依然として不明である。この点を解明するために、㈱免疫生物研究所と共同研究を行い、ELISA系を開発した。今後、様々な臨床検体、動物モデルの血中遊離T-cad濃度を測定し、血中遊離T-cadの病態生理学的意義を明らかにする。また、骨格筋・心筋・血管内皮・組織MSCs特異的T-cad欠損マウスの作出を行っており、遊離T-cadの主要な産生組織・細胞を決定する。 さらに、これらの組換えマウスを用いて、血中Exoの主要な産生組織・細胞を明らかにするとともに、組織MSCsが産生するExoの生理的役割とそのAPNによる制御、及びこれらの経路を促進する創薬ターゲットの創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
「エクソソーム産生調節を介するアディポネクチン作用の基盤と応用展開」では①APNのExo産生促進を介する臓器保護機序を解明し、②膜近傍切断制御を中心としたT-cadの制御機構、及び血中遊離T-cadの病態生理学的意義を解明する。また、③APN/T-cadシステムの間葉系幹細胞機能における役割を明らかにすることを目的とした。 この中で学術研究助成基金助成金以外にも、②では「アディポネクチン結合蛋白制御因子に関する創薬研究」と題した興和創薬㈱との共同研究により、また③では「アディポサイトカインによるヒト間葉系幹細胞制御メカニズムの研究」と題したロート製薬㈱との共同研究、大阪大学イノベーションブリッジグラント、AMED橋渡し研究基金、上原記念生命科学財団研究基金などの各種競合研究資金を得て、研究を推進している。 繰越金は翌年度分として請求した助成金、また上記の各種研究資金とあわせて、骨格筋・心筋・血管内皮・組織MSCs特異的Exo産生欠損マウスの作出など、「エクソソーム産生調節を介するアディポネクチン作用の基盤と応用展開」を目指す本研究を推進するために使用する。
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