研究課題/領域番号 |
19K08981
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
廣田 勇士 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (80566018)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | インスリン抵抗症 / PIK3R1 / iPS細胞 / エクソーム解析 |
研究実績の概要 |
A型インスリン抵抗症はインスリン受容体異常症A型とも呼ばれ、インスリン受容体遺伝子の異常により、強いインスリン抵抗性を呈する糖尿病を発症する疾患である。一方、A型様表現型を示すものの、インスリン受容体遺伝子に異常のない例も稀に存在し、このような例は受容体以降の情報伝達障害が原因と考えられている。我々は全エクソーム解析の結果、PI3キナーゼの調節サブユニットp85αをコードする遺伝子であるPIK3R1にc.1945C>T変異が存在する症例を見出している。本研究では、iPS細胞を用いて、PIK3R1の遺伝子異常によるインスリン抵抗症をきたす分子メカニズムの解明を目指している。また、原因遺伝子が未同定のインスリン抵抗症家系のエクソーム解析を行い、原因遺伝子を同定することも目指している。PIK3R1変異を持つ患者からiPS細胞を樹立し、ヒトiPS細胞からインスリン作用が評価可能な肝細胞へ分化誘導する系を確立した。さらにCRISPR/Cas9を用いてPIK3R1の変異を修復したiPS細胞を作製し、肝細胞への分化誘導を行っている。 また、厚労省ホルモン受容体研究班の調査で報告されたINSRやPIK3R1遺伝子に変異を認めない先天的インスリン抵抗性糖尿病症例について、家系のエクソーム解析を行った結果、2個の候補遺伝子を得た。データベース解析において、これらの候補遺伝子は骨格筋、肝臓、脂肪といったインスリン感受性臓器に発現がない事が分かり、さらに解析を行っている。 さらに、発端者6名を含む17名のインスリン抵抗症家系のDNAを、同意を得た上で収集した。これらのうち2名については、INSR、PIK3R1の遺伝子解析の結果、発端者1名その家系1名の計2名にINSRの変異を認めた。しかし、15名には原因となる変異を認めず、うち発端者3名家系4名の計7名にエクソーム解析を施行する段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PIK3R1変異を持つ患者からiPS細胞を樹立(疾患iPS細胞)し、ヒトiPS細胞からインスリン作用が評価可能な肝細胞へ分化誘導する系を確立した。その誘導法を用いて疾患iPS細胞を肝細胞に分化させると、Aktの活性化や糖新生系遺伝子の発現抑制などのインスリン作用が減弱することを見出している。次に、CRISPR/Cas9を用いてPIK3R1の変異を修復したiPS細胞を作製し(修復iPS細胞)、肝細胞への分化誘導を行った。これらのiPS細胞を用いて、Aktの活性化や糖新生系遺伝子の発現解析を行い、インスリン作用を評価しているところである。 また、厚労省ホルモン受容体研究班の調査で報告されたINSRやPIK3R1遺伝子に変異を認めない先天的インスリン抵抗性糖尿病症例について、家系のエクソーム解析を行った結果、2個の候補遺伝子を得た。データベース解析において、これらの候補遺伝子は骨格筋、肝臓、脂肪といったインスリン感受性臓器に発現がない事が分かり、さらに解析を行っている。 さらに、発端者6名を含む17名のインスリン抵抗症家系のDNAを、同意を得た上で収集した。これらのうち2名については、INSR、PIK3R1の遺伝子解析の結果、発端者1名その家系1名の計2名にINSRの変異を認めた。しかし、15名には原因となる変異を認めず、うち発端者3名家系4名の計7名にエクソーム解析を施行する段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
疾患iPS細胞と修復iPS細胞を用いて、肝細胞以外にも骨格筋細胞や脂肪細胞などに分化させ、これらの細胞で糖・脂質・蛋白の各代謝に関する種々のインスリン作用を検討することにより、PIK3R1変異がどのインスリン感受性細胞において、どのような代謝障害を起こすかを明らかとする。また、PIK3R1によって産生される3つの調節サブユニットと触媒ユニットやチロシンリン酸化蛋白との結合性、インスリンによるPIP3産生量の測定やPIP3産生部位の細胞内局在のバイオイメージング解析等を実施し、PI3キナーゼの活性化機構におけるPIK3R1 c.1945C>T変異の意義を明らかにする。 原因遺伝子が未同定の遺伝的インスリン抵抗性糖尿病の症例については、原因遺伝子の同定を進め、候補遺伝子が同定されれば、脂肪細胞、筋肉細胞、肝細胞における発現を検討し、いずれのインスリン標的臓器で機能を持つかを推定する。その後、培養筋肉、脂肪、肝細胞において野生型の過剰発現実験、患者が有する変異を持つ変異体の過剰発現実験、siRNAによる発現抑制実験などを行うことにより、候補遺伝子のインスリン作用における機能を細胞レベルで確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
想定よりiPS細胞関連の費用および遺伝子解析費用が少なかったことにより、次年度使用額が生じている。今後の予算使用予定としては、エクソームを含む遺伝子解析および同定された遺伝子変異の機能解析について研究費が必要となるため、次年度使用額として使用する予定である。
|