研究課題
本年は、以下の検討を行った。①前年度に骨格筋におけるPin1結合蛋白としてSERCA1/2を同定していた。Pin1は、標的蛋白のpSer/pThr-Pro配列に結合することから、両蛋白に存在する配列をアラニンに置換した変異体を作成した。その後、Pin1との免疫沈降やpull down assayを行うことにより、Pin1結合部位の同定を試みた。②小胞体ストレス応答 (UPR)がKOマウスの糖代謝障害に関与しているかを検討するために、CHOPやBip等のUPR関連遺伝子の発現量を測定した。普通食餌には、WTとKOマウスの骨格筋においてUPR関連遺伝子の発現量は変わらなかったが、高脂肪食負荷時のKOマウスの骨格筋、特にヒラメ筋では、WTマウスと比較してUPR関連遺伝子群が有意に増加していた。③同様に炎症性サイトカインが糖代謝異常に関与しているかを検討したところ、KOマウスのヒラメ筋では、炎症性サイトカインの発現量も有意に増加していた。④SERCA活性を制御するサルコリピンやホスホランバンの骨格筋での発現量を調べたところ、免疫染色ではWTとKOマウスで明確な差は認められなかった。一方、ウエスタンブロットでは、蛋白の分子量の小ささ等から検出がうまくいっておらず、現在条件を検討中である。⑤マウスの行動量が体重の変動に寄与するかを検討したところ、WTとKOマウスの自発的行動量には差が認められなかった。このことから高脂肪食時のKOマウスの体重増加は、骨格筋の熱産生障害や糖・脂質代謝異常が主原因であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
マウスの自発的行動量は変わらなかったが、KOマウスの骨格筋では、小胞体ストレス応答や炎症性サイトカインの発現が増加していることが明らかとなり、KOマウスの耐糖能の悪化の一因が同定できたから。
次年度は、以下のことを行う予定である。①WTとKOマウスの摂食量②Pin1と結合できないSERCA1/2変異体は、サルコリピンとの結合がWT SERCA1/2と比較して減少するか、また変異体はPin1による影響を受けないことを確認する。③小胞体のカルシウムサイクリングにおけるPin1の役割④骨格筋におけるPin1発現変動メカニズムの解明
骨格筋特異的Pin1 KOマウスにおいて糖・脂質代謝障害が誘発されるメカニズムの解明が当初の予定より順調に進んだ。また、標的蛋白のPin1結合部位の同定に関しても予想よりスムーズに進んだ。一方で、カルシウムシグナリングや低分子ペプチドであるサルコリピンやホスホランバンの検出が困難であり、計画の変更を余儀なくされた。そのため、次年度には機器の購入等により上記の課題を克服する予定である。
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Metabolism
巻: 15 ページ: 154459
10.1016/j.metabol.2020.154459
Cancer letters
巻: 470 ページ: 106-114
10.1016/j.canlet.2019.10.043