糖尿病・肥満などの生活習慣病の増加を背景として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)やNASH肝癌の罹患率が急増しており、NASH及びNASH肝癌の発症・進展機構の解明と予防・治療法の開発は喫緊の課題である。本研究では、脂肪肝からNASHを経てほぼ全例が肝癌を発症するヒトの病態に酷似したNASHマウスを用いて、過剰な脂肪蓄積により細胞死に陥った肝細胞を取り囲んで貪食・処理する特徴的な組織像(hepatic crown-like structure(hCLS))を形成するマクロファージに主に発現する、中鎖脂肪酸をリガンドとするGタンパク質共役型受容体GPR84に着目し、NASHの発症・進展機構の解明と医学応用を目指して研究を行った。本年度は、昨年度に引き続きGPR84ノックアウトマウスとNASHマウスの交配によりGPR84が欠損したNASHマウス(DKOマウス)の解析を行った。DKOマウスはNASHマウスと比較して体重や摂食量、血糖値などに有意差は見られなかったが、肝重量、ALT値の有意な増加と肝線維化の増悪を認めた。一方、単位重量当たりの肝脂肪含有量はDKOマウスで有意に低下していた。炎症や線維化に関する遺伝子発現を検討したところ、DKOマウスはNASHマウスと比較していずれの因子も有意な差は認められなかった。GPR84シグナルのマクロファージ機能に対する影響を評価するため、骨髄より調整した単球からマクロファージを分化誘導してサイトカイン分泌能と貪食能を検討した。野生型マウスのマクロファージと比較してGPR84欠損マクロファージのサイトカイン分泌に有意な差は認められなかった。一方、貪食能を評価したところ、GPR84のアゴニストである6-OAUを添加した群でマクロファージの貪食能が有意に増加することが明らかとなった。
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