研究課題/領域番号 |
19K08984
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
原 朱美 埼玉医科大学, 医学部, 非常勤講師 (60570009)
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研究分担者 |
藤谷 与士夫 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (30433783)
中尾 啓子 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (70338185)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PPY細胞 / β細胞 / 糖尿病 / 分化転換 |
研究実績の概要 |
申請者らは、ある2 型糖尿病マウスで、血糖値上昇に伴い、β細胞でPdx1発現量が低下し、特に膵島辺縁領域でβ細胞からPPY細胞への分化転換が誘導されることを明らかにした。この結果から、申請者は、膵島辺縁領域には可塑性の高い細胞集団が存在しているものと考えた。さらに、β細胞からPPY細胞の分化転換が起きている背景と して、PPY細胞とβ細胞は発生学的に近縁である可能性を考えた。本研究課題は、PPY-β細胞間の発生学的関係、およびその分化転換制御機構を解明し、PPY細胞がβ細胞の新たな起源細胞となる可能性を証明することを目的としている。 2019年度は、膵島辺縁領域の細胞特異的にPdx1などβ細胞からPPY細胞への分化転換を制御する候補遺伝子を局所的に導入し、その細胞系譜を追跡するため、膵島辺縁領域に局所的に遺伝子導入することができる膵臓の電気穿孔法の開発、確立し、論文投稿準備中である。申請者らが確立した膵臓の電気穿孔法では、膵島中央領域には遺伝子は導入されない。したがって、高い可塑性をもつ膵島辺縁領域の細胞に目的の遺伝子を導入することを可能にする非常に画期的な唯一の方法である。さらに、一度遺伝子導入された細胞では、永久に遺伝子発現を持続させることが可能である。そして、膵島辺縁領域の細胞配列にモザイク状に遺伝子導入されるため、1個の膵島内で遺伝子導入細胞 (遺伝子変異細胞)と、正常な非導入細胞 (コントロール細胞)が存在することとなり、膵島内で両者の表現型を比較・解析することができる。また、適切なタイミングで膵臓への電気穿孔法を行い、目的とする遺伝子を発現させることが可能である。今後の検討では、申請者らが確立した膵臓の電気穿孔法を用いて進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らはこれまで、PPY-Creノックインマウスの作製と抗マウスPPYモノクローナル抗体の作製 (平成27、28年度若手研究B)を行い、抗マウスPPYモノクローナル抗体を樹立した (特許出願中)。一方、糖尿病モデルマウスを用いたβ細胞-PPY細胞間の分化転換制御機構を解明するにあたり、遺伝子改変マウスを用いた既存の解析方法には、①各遺伝子の動物モデル作製に要する時間、コストがかかる ②糖尿病モデルマウスの生理的変化による各遺伝子への影響 ③遺伝子改変モデルマウスでは、目的の遺伝子を発現する全ての細胞で遺伝子を変異させてしまう ④これまでの膵組織切片を用いた解析方法では細胞の分化過程のある一瞬の細胞状態しか観察できないなどの多くの問題が存在する。さらに、膵島辺縁領域の高い可塑性をもつ膵島細胞がダイナミックな遺伝子発現変化により分化転換する過程を解析する中で、分化転換過程の一瞬だけを切り取り解析してきた既存の解析方法では、真の分化転換過程を解明することは不可能であると考えた。そこで、2019年度では、様々な条件検討の結果、膵炎を惹起することなく膵島辺縁領域に局所的に遺伝子導入する方法を確立した (論文投稿準備中)。さらに、膵島辺縁部に存在する細胞が、時間経過と共に膵島中核部を構成する成熟したβ細胞に分化することを示唆する結果を得た。また、Rosa26-YFPとPdx1-floxの両遺伝子を保有するマウスの膵臓に、rat insulinII promoter-cre recombinase (RIP-Cre)プラスミドを電気穿孔法で導入し、Pdx1の発現を低下または欠失させると、β細胞の減少と同時にα細胞またはPP 細胞の増加が見られ、膵島辺縁領域の細胞からα細胞またはPP 細胞への分化が示唆された。以上より、本研究課題の検討は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
膵島辺縁領域の細胞に関しては、2017年にVirgin β細胞と呼ばれる未成熟なβ細胞の存在が報告されている。Virginβ細胞(以下Vβ細胞)は膵島の辺縁領域に存在し、インスリンは産生しているが、成熟したβ細胞に認められるUrocortin3やGlut2を発現しないなど未熟なβ細胞であり、Vβ細胞のみで発現する遺伝子が同定されていないためVβ細胞自体の細胞系譜解析ができないことから、Vβ細胞が成熟したβ細胞に分化するかについては証明されていない。申請者は、このVβ細胞と膵島辺縁領域の可塑性の高い細胞が非常に類似あるいは一致しているのではないかと考え膵島HUB細胞と呼ぶこととした。さらに、申請者の検討において、Rosa26-YFPとPdx1-floxの両遺伝子を保有するマウスの膵臓にRIP-Creプラスミドを電気穿孔法で導入し、Pdx1の発現を低下/欠失させると、β細胞の減少と同時にαまたはPPY 細胞の増加が見られ、膵島HUB細胞からα細胞またはPPY細胞への分化が示唆された。申請者はこの結果から、膵島HUB細胞においてβ細胞からαあるいはPPY細胞への分化転換は、Pdx1より上流の遺伝子によって制御されているのではないかと考えた。 2020年度は、膵臓の電気穿孔法を用いて、PPY細胞の細胞系譜の中でも、膵膵島HUB細胞におけるβ細胞からPPY細胞への分化転換を制御する候補遺伝子を探る。具体的には、β細胞からPPY細胞の分化転換に着目し、①高脂肪食負荷+/-STZ負荷を掛けて高血糖にした場合、②成熟β細胞と比べて膵臓HUB細胞の方で高い発現を示す転写因子の発現を下げた場合、③成熟β細胞と比べて膵島HUB細胞の方で低い発現を示す転写因子の発現を上げた場合、膵臓HUB細胞がどのような分化状態になるのかを解析することにより、膵島HUB細胞の分化を制御するメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に細胞生物学的解析用試薬・器具の購入に使用する計画であったが、2019年度に購入した物品量で不足がなかったため、2020年度の細胞生物学的解析用試薬・器具の購入に使用することとした。
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