本研究の目的は、精巣と副腎皮質におけるステロイドホルモン生合成細胞間のリプログラミングによる相互代償機構の解明、である。当該期間では、副腎摘出後の成獣マウスの精巣内におけるグルココルチコイド産生細胞へのリプログラミング能力の有無とその程度について引き続き評価した。 具体的には、8週齢の野生型(C57Bl/6J)雄マウスを対象として、開腹による副腎の目視のみの偽手術を行ったA群、両側の副腎を摘出し閉腹したB群、両側の副腎と精巣を摘出し閉腹したC群に分類し、術後は単独飼育とし生理食塩水による給水を行い、体重変化を経時的に測定した。その後、16週齢の時点で、3群間の体重と生存割合を比較し、3群全てに対して腹腔内ACTH負荷試験、A群およびB群に対して精巣内コルチコステロン(CS)濃度測定、A群およびB群に対して精巣のRNAシーケンス解析を行った。 3群間の16週齢時の体重や生存割合に有意差は認められなかった。ACTH負荷後の血清CS濃度については、B群とC群はA群に比較して有意に低かったが、B群とC群の間に有意差はみられなかった。精巣内CS濃度については、B群はA群に比べ、有意に低かったが、検出限界以上で測定可能であった。精巣のRNAシーケンスでは、CS産生に寄与する遺伝子を含め精巣で発現する遺伝子パターンにA群とB群の間で有意差はみられなかった。以上の結果から、副腎摘出後の成獣期のマウスの精巣では、胎生期とは異なり、グルココルチコイド産生細胞へのリプログラミングが起こりにくいことが判明した。
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