ApoE欠損マウスに高コレステロール食を負荷すると血管のIrs2の発現が、高コレステロール食負荷4週目から有意に低下していた。そこで動脈硬化病変形成に重要な役割をしているLDLの構成成分であるリゾフォスファチジルコリン(16:0)をprimaryのマウス血管内皮細胞に添加したところIRS-2の発現が濃度依存的に低下することを見出した。次に血管内皮細胞でIRS-2が低下すると、本当に動脈硬化症を発症する のかどうかについて血管内皮細胞特異的IRS-2/ApoEダブル欠損マウスを作成し、高コレステロール食負荷を15週間行った。まずリスクファクターを検討するために、体重、インスリン値、中性脂肪値、HDL値を測定したが、コントロールと差を認めなかった。さらに、糖負荷試験とインスリン負荷試験を行ったが両群間で差を認めなかった。この時に、大動脈弁輪部の粥状動脈硬化を検討したところ、血管内皮細胞特異的IRS-2/ApoEダブル欠損マウスでは有意に粥状動脈硬化が亢進していた。次に我々が使用したTie2-Creマウスは骨髄細胞でもIRS-2が欠損するため、骨髄細胞の影響を除外するために放射線照射を行い野生型マウスの骨髄移植を行っても、血管内皮細胞特異的IRS-2/ApoEダブル欠損マウスは動脈硬化が促進した。このことからリスクファクターとは独立に、血管内皮細胞でIRS-2が低下すると動脈硬化が促進することが明らかとなった。そこで血管での炎症性サイトカインを検討したところ、MCP-1やiNOSといった炎症性サイトカインやICAM1やVCAM1といった接着因子が上昇していた。以上のことから血管内皮細胞でIRS-2が低下すると炎症性サイトカインが増加し、動脈硬化が惹起されることが明らかとなった。
|