研究課題/領域番号 |
19K08994
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
小林 雅樹 群馬大学, 生体調節研究所, 講師 (80373041)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グルカゴン / 糖尿病 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病では高グルカゴン血症が認められており、高血糖の一因と考えられている。糖尿病モデルマウスに対し、食事負荷試験を行い、空腹時よりも食後に高グルカゴン血症が顕著となることが明らかになったため、糖尿病モデルマウスで各種栄養素投与後の血中グルカゴン濃度を測定したところ、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の投与によって高グルカゴン血症が惹起されることを確認した。 糖尿病においてBCAA投与後に高グルカゴン血症となる機序を解明するため、糖尿病モデルマウスから単離した膵島に対しBCAA添加を行ったところ、単離膵島においてもグルカゴン過剰分泌が認められ、さらにBCAA添加で膵α細胞のカルシウム流入の増加も認められた。一方でBCAA輸送体の阻害剤を添加するとBCAAによるグルカゴン過剰分泌は抑制された。続いて、糖尿病モデルマウス膵島の遺伝子発現量を解析し、BCAA代謝促進酵素であるBCAT2の減少、およびBCAA代謝抑制酵素であるBCKDKの発現増加を確認した。即ち、糖尿病モデルマウス膵島では、BCAAの代謝異常が起こっている可能性が示された。実際に膵島のBCAA代謝産物を調べると、BCAA異化で産生される分岐鎖ケト酸や分岐鎖アシルCoAの含量は減少していた。次に、BCKDK阻害剤であるBT2を糖尿病モデルマウス膵島に添加したうえで、BCAA添加を行ったところ、グルカゴンの過剰分泌は改善された。以上より、糖尿病モデルマウスで認められたBCAA応答性高グルカゴン血症に、膵島細胞のBCAA代謝異常が関与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2型糖尿病モデルマウスのBCAAによるグルカゴン過剰分泌のメカニズムとして、糖尿病モデルマウスの膵島におけるBCAA代謝異常がグルカゴン過剰分泌に関与している可能性を明らかにすることが出来た。このことは今年度の大きな進展として挙げられる。 本研究課題では、糖尿病によりアミノ酸応答性のグルカゴン分泌が障害されるメカニズムを細胞レベルで明らかにするため、温度感受性突然 異SV40ラージT抗原(tsSV40T) 遺伝子を導入したラットの膵島より、培養温度の変化によるtsSV40T作用の制御を通じて細胞の増殖と分化を制御することが可能な、新しい膵α細胞株の樹立を目指している。現在までに培養中の膵島細胞においてtsSV40Tの発現を確認することが出来たが、有意な膵島細胞の増殖の確認には至っていない。この点については当初の計画より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
BCAA刺激によるグルカゴン分泌調節に関わる細胞内シグナル経路を探索するため、候補となるシグナル経路を外因的に操作(関連遺伝子の強制発現やノックダウン、作動薬や阻害 理など) した際のグルカゴン分泌への影響を解析する。そのために、所属研究室において作製、維持をしている膵α細胞特異的蛍光タンパク発現マウスの単離膵島細胞を用いたカルシウムイメージング実験により、膵α細胞におけるグルカゴン分泌活性の観察を行う。 tsSV40T遺伝子導入ラットの膵α細胞株の樹立においては、膵α細胞増殖刺激を加えた 態での細胞培養を行うことを予定している。刺激としては、高アミノ酸(高グルタミン)や、グルカゴンKOマウスの血清の添加などを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの増加による学会や研究会の開催方法に大きな変化が生じたため、旅費の支出に変化が生じた。また、大学キャンパス内への立ち入りに制限が生じた時期などもあったため、謝金の支払計画にも変化が生じた。 研究計画そのものには大きな変化はないが、生じた次年度使用額については現在研究が遅れている膵α細胞株樹立のための培養実験の効率化を図るためのキットなどの消耗品の購入に充てる予定である。
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