研究課題/領域番号 |
19K08997
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
笹岡 利安 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (00272906)
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研究分担者 |
和田 努 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 講師 (00419334)
恒枝 宏史 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 准教授 (20332661)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 未病 / 糖尿病 / 慢性炎症 / 性差 / 肥満 / 糖代謝 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
申請者の研究グループは、肥満モデルマウスの内臓脂肪組織におけるトランスクリプトームの複雑系数理的解析により、肥満早期において発現変動が認められるCD52が、将来の肥満病態形成・進展にかかわる未病因子である可能性を見出した。CD52はT細胞やB細胞などの免疫細胞の表面に発現する糖タンパク質だが、近年T細胞活性化に伴い可溶化され血中に遊離し、過剰な免疫反応を抑制することが明らかとなった。そこで、肥満との関連が未知な本因子につき、特に肥満病態に伴う慢性炎症との関連に着目して研究した。 肥満マウスにおけるCD52のmRNA発現を、炎症性サイトカイン発現と関連づけて検討した。4か月間高脂肪食を負荷した雄性マウスは、内臓脂肪蓄積に伴う体重増加、耐糖能障害、インスリン抵抗性を示した。本マウスの内臓脂肪では、CD4+T細胞の減少とCD8+T細胞の増加が認められ、mRNA発現解析でもマクロファージおよび炎症性マクロファージの指標であるF4/80とCD11c、および炎症性サイトカインTNFαとIL1βの増加を認めた。興味深いことに、炎症抑制能が期待されるCD52の発現は肥満の内臓脂肪組織で上昇した。よって、CD52は肥満病態の進展に関わる慢性炎症に対し、防御的に機能する可能性が示された。同様の知見は、雌性マウスの卵巣を摘出し高脂肪食を16週間負荷した閉経肥満モデルマウスでも得られた。本研究での肥満特異的なCD52の発現変化は内臓脂肪組織に特異的であり、骨格筋や肝臓では発現変化を認めなかった。さらにやせ型マウスの内臓脂肪の解析から、CD52を発現する細胞はその7-8割程度がCD4+T細胞であること、内臓脂肪CD4+T細胞はその発現によりCD52hiとCD52lowの2つの細胞集団に分類されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書への記載に基づいて、本年度は、CD52が肥満の病態形成を促進する可能性を高脂肪食を負荷たマウスを用いて検証した。さらににCD52の影響につき「性差」に着目し、雄性と卵巣摘出雌性(閉経肥満モデル)マウスを用いて高脂肪食負荷による食事性肥満病態がどの組織でのCD52発現に影響するかにつき検証した。本年度の研究において、高脂肪食摂取による肥満病態や雌性卵巣摘出後に高脂肪食を負荷した女性更年期モデルマウスにおいて、CD52は脂肪組織特異的に発現上昇する知見が得られた。以上より、トランスクリプトームの複雑系数理的解析により肥満早期において認められた発現変動が、マウス病態モデルにおいて肥満病態に深く関わる可能性を本年度の研究で示すことができたことから、2020年度以後のCD52欠損マウスの解析による研究の進展と成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書に記載したとおり、今後、肥満病態の内臓脂肪でのCD52発現上昇に関わる免疫細胞を同定し、その慢性炎症進展への影響、ならびにその機構につき検証を進める。現在、C57BL/6JへのバッククロスによりCD52欠損マウスを用いた解析準備を進めている。本マウスを用いてCD52の肥満病態形成への関与を直接検証することで、CD52の未病因子としての可能性を追求し検証する。雄性のCD52欠損マウスおよび野生型マウスに高脂肪食(HFD)を負荷する。雌性では卵巣摘出(OVX)後にHFD負荷を行う閉経肥満モデルを使用する。代謝表現型および各種免疫細胞の組織局在や経時的変化を解析し、CD52欠損による慢性炎症を中心とした病態形成機序を解明する。以上、2019年度に得られた研究成果を発展させ、肥満に伴う代謝疾患の治療に際し、肥満を未病状態で防止する新規対処法を創出するために研究を推進する。
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