研究課題
肥満病態は糖尿病およびその合併症の原因として重要であり、疾病を発症前の未病状態で捉えることは肥満の予防治療戦略の進展に寄与する。申請者の研究グループでは閉経肥満早期マウスの内臓脂肪組織における網羅的遺伝子発現変動の数理解析より、肥満病態を形成する未病候補因子としてCD52を見出した。CD52はT細胞免疫を制御することから、肥満に伴う慢性炎症におけるCD52の機能的意義を探求した。昨年度に肥満病態での内臓脂肪特異的なCD52の発現上昇が雌雄のマウスで明らかとなったことから、本年度は、CD52ヘテロおよびホモ欠損マウスの解析を行った。1)閉経期モデルとして卵巣摘出と高脂肪食負荷を行った雌性マウスCD52の発現も、内臓脂肪組織において上昇したが、肝臓では発現変化を認めなかった。卵巣摘出と高脂肪食負荷したCD52ヘテロ欠損マウスは、対照マウスと同程度の体重増加および耐糖能障害を呈した。一方で、慢性炎症の指標としてTNFαの発現は、対照マウスと比較してCD52ヘテロ欠損マウスの内臓脂肪組織では変化を認めなかったが、肝臓においては上昇した。2)雄性CD52ホモ欠損マウスは対照マウスと比較して、体重増加、耐糖能異常、および内臓脂肪組織と肝臓で慢性炎症の増悪が認められた。一方で、雌性CD52ホモ欠損マウスは対照マウスと比較して体重および耐糖能に差異はなく、内臓脂肪組織と肝臓においてTNFαの発現変化を認めなかった。IL-1βの発現は、CD52ホモ欠損マウスの内臓脂肪組織で低下したのに対し、肝臓では上昇していた。3)CD52ホモ欠損マウスは対照マウスと比較して、雌雄ともに加齢による糖代謝および内臓脂肪組織と肝臓における炎症性サイトカインの発現に差異は認めなかった。以上より、CD52は未病因子として肥満病態の進展抑制に関与する可能性が示され、その意義は雄性マウスにおいてより顕著に認められた。
2: おおむね順調に進展している
2020年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書への記載に基づいて研究を実施した。2019年度の研究成果により、耐糖能異常とインスリン抵抗性を示す肥満マウスの内臓脂肪組織においてCD52の発現上昇を認めた成果をもとに、2020年度は研究を発展させた。本年度の研究において、CD52ヘテロおよびホモ欠損マウスを用いた解析により、対照マウスと比較してCD52欠損マウスは、体重増加と耐糖能異常を認め、内臓脂肪と肝臓での慢性炎症が増悪するする知見が得られた。以上より、トランスクリプトームの複雑系数理的解析により肥満早期の未病因子として同定されたCD52は、本年度に遂行したその欠損マウスの解析により、慢性炎症の発症進展を制御して肥満病態に関与することが示されたことから、2021年度のCD52欠損マウスの解析の更なる進捗により本研究の進展と成果が期待される。
2019-2021年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書に記載したとおり、2021年度はCD52の生理的役割と病態での意義を解明するため、CD52欠損マウスの解析を更に推進する。高脂肪食を負荷した雄性CD52欠損マウス、および高脂肪食を負荷して卵巣摘出した閉経期を反映する雌性CD52欠損マウスでの、体重増加と耐糖能異常の原因として慢性炎症の発症進展機構を解析する。脂肪組織、骨格筋、および肝でのCD52欠損の影響と各種免疫担当細胞の発現・局在・機能変化を解析することで、雄性と雌性でのCD52およびその受容体であるSiglec-Gによる肥満病態での慢性炎症の形成を主とした病態形成機序を解明する。以上、2020年度に得られた研究成果を更に発展させ、肥満に伴う代謝疾患と合併症の治療に際して、CD52の制御により肥満を未病病態で防ぐ新規治療戦略の創出に向けて研究を推進する。
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Diabetologia
巻: in press ページ: in press
10.1007/s00125-021-05447-x