研究課題/領域番号 |
19K09007
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
岩崎 泰正 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (30303613)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロオピオメラノコルチン / ストレス / ネガティブフィードバック / グルココルチコイド / 下垂体 |
研究実績の概要 |
今回の研究課題の最終目標は、視床下部・下垂体・副腎系(HPA軸)のネガティブフィードバック調節を制御する分子機序を明らかにすることである。副腎皮質から分泌されたグルココルチコイドは、上位内分泌器官は視床下部(特に室傍核)ならびに下垂体前葉のACTH産生細胞に作用してネガティブフィードバック作用を発揮する。このため、個体レベルでグルココルチコイドが上記部位に抑制的に作用する機序を明らかにする目的で、東北大学井樋教授との連携により視床下部ならびに下垂体前葉においてグルココルチコイドが発現に強い影響を与える標的遺伝子をゲノムワイドRNA-シークエンス解析でマウスを対象として網羅的に検索した。 その結果、今回対象とした視床下部室傍核において、興味深いことに、最初期遺伝子(immediate early gene;IEG)に属するFos, FosB, Egr1, Nr4a3 (Nor1)がグルココルチコイド投与早期に迅速に誘導された。上記の結果は培養細胞を用いた in vitroの解析でも確認された。上記遺伝子の蛋白産物は転写因子として作用することから、転写因子により二次的に誘導される遺伝子の産物が、CRH遺伝子の転写抑制に関与している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は日本内分泌学会の秋季全国大会を会長として主催したため、その準備や実施、事後処理に多大な時間や労力を費やし、実験自体を遂行することは極めて困難な状況であった。しかし従来から連携している研究者とのコラボレーションにより、前述の成果を挙げることができた。また自身が初年度に立案した研究計画は令和2年度に持ち越すことになり、結果的に初年度の研究費は温存した。本年度に得られた成果の中で特に注目すべき点は、当初の研究計画で研究の標的とした複数の遺伝子(Rasd1, HDAC6, FKBP4/5, GDF15など)のうち、Fkbp5がグルココルチコイドにより in vivo で発現誘導されることを確認したことである。Fkbp5(ヒトではFKBP5)は、細胞質においてグルココルチコイド結合蛋白(GSP90)と相互作用することによりグルココルチコイド受容体の細胞質・核内移動に影響を与えることが知られており、グルココルチコイドによるネガティブフィードバック調節に、視床下部・下垂体の両レベルにおいて関与している可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
上述のごとく、令和元年度に予定していた研究計画を本年度以降に行う。幸いなことに、研究の対象とする遺伝子群(Rasd1, HDAC6, FKBP4/5など)を対象とした転写調節領域のクローニング作業は令和元年度までに順調に作業が推移し、ヒトおよびラットにおいて、ほぼ全てのクローニングが終了した。またin vitroにおいて転写調節を解析するための細胞(ヒト神経系由来BE2C細胞株など)培養系の確立、および各種グルココルチコイド受容体の発現ベクターの作成作業も完了している。今後、令和元年度の網羅的な研究成果に基づいた新たなグルココルチコイド標的遺伝子候補が見出された場合は、改めて転写調節領域のクローニング作業を行い、研究対象に追加する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のごとく、令和元年度は日本内分泌学会の秋季全国大会を会長として主催したため、その準備や実施、事後処理に多大な時間や労力を費やし、実験自体を遂行することが極めて困難な状況であった。また学会終了後の12月~3月は、定年退職前の実験室閉鎖作業に従事したため、培養細胞の維持を行うことが困難であった。しかしそのような状況の中でも、東北大学や弘前大学との情報交換を頻繁に行い、令和2年度に新たな研究機関(鈴鹿医療科学大学)で研究を継続・遂行するための準備を行ってきた。結果的に令和元年度の研究費を温存することが出来たため、令和2年度より、新しい職場の実験環境を整備し、それが終了し次第、研究計画初年度の分も含め、当初予定していた実験を遂行していく予定である。
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