糖新生は血糖値を維持するために重要な生体の営みであり、筋肉や脂肪由来のアミノ酸や乳酸、グリセロールといった様々な器質を出発点としてグルコースを産生する複数の経路が存在する。糖新生は肝臓の他に腎臓で行われることが報告されているが、肝臓が主に全身の糖産生を担っていると考えられている。グリセロールを器質とする糖新生経路の律速酵素の1つにグリセロールキナーゼ(以下Gyk)があるが、Gyk経路は絶食や肥満糖尿病において糖産生におけるその重要度が増すことが他施設の研究で報告されている。しかし、肝Gyk経路が直接糖産生にどのように関与するかについての分子生物学的メカニズムは未だ明らかにされておらず、その解明のために肝臓特異的Gyk欠損マウス(以下肝Gyk欠損マウス)の作製を行い研究をすすめた。 肝Gyk欠損マウスを絶食させGykが欠損していない対照マウスと比較したところ血糖値には変化ないという結果がえられ、また、肝Gyk欠損マウスに2ヶ月間高脂肪食を負荷したところ、対照マウスと比較して血糖値に有意な差を認めなかった。このように、当初は肝Gyk経路が単独で絶食や肥満に伴う血糖値制御に強く関与していると予想していたが、肝Gyk欠損マウスを用いた検討ではその仮説を支持する結果は得られなかった。 そこで、グリセロールを基質とする糖新生の個体レベルの解析のためには、肝臓のみならず腎における糖新生も考慮にいれる必要があると考え、研究期間の途中から肝に加えて腎臓でもGykが欠損したマウスの作製に着手し、絶食時や高脂肪食への介入を行う準備をすすめた。今後は今回の研究データの上に肝腎2つの糖新生臓器のGyk経路への介入実験を積み重ねていくことで、糖新生Gyk経路による個体レベルでの代謝制御を探究し、血糖恒常性の維持の解明や肥満糖尿病への新規アプローチへとつなげていく予定である。
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